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もっさりシナリオブログ

もけの脚本・シナリオ等創作置き場(無断転載不可)

秋の遺産@すすき

人物

佐藤正(41)会社員

佐藤美由紀(39)主婦・正の妻

佐藤大河(11)小学生・正の息子

佐藤千花(9)小学生・正の娘

佐藤春子(74)無職・正の母

佐藤進(44)無職・正の兄

 

 


○谷の丘中央病院・入院病棟の個室

   枕元に飾ってある花を見てからゆっくり体を起こし、

   窓の外をぼんやり見ている佐藤春子(74)外から見える大きなけやきの

   枯れ葉がはらりと落ちているのを見てため息をつく。

   と、病室廊下から明るい声が聞こえる。それを聞いた春子、にっこり微笑む。

   病室に佐藤大河(11)と佐藤千花(9)が入って来る。遅れて佐藤美由紀(39)

   が入り、病室の戸を閉める。

美由紀「大河、千花、病院は走ったらだめだっていつも言ってるでしょ」

   大河、千花、構わず春子の元に駆け寄る。

大河「おばあちゃん具合はどう?」

千花「おばあちゃん大丈夫?」

春子「(にっこり笑って)二人が来てくれた から元気になって来たよ」

千花「じゃあ退院出来る?」

春子「それはどうかなあ」

美由紀「お義母さん、すみません。騒がしくしてしまって…」

春子「いいのよ。(大河と千花に)あなた達がときどきお見舞いに来てくれるのは

 嬉しいわ」

美由紀「そうですか、迷惑でなければ良かったです」

   美由紀、持ってきた春子のための着替えなどを整理する。千花が窓の外を見る。

千花「ねえおばあちゃん、もうすっかり秋になっちゃったね。

 一緒に海水浴行きたかったなあ」

大河「秋には秋で遊ぶ事たくさんあるよ!」

千花「えー?例えば?」

   大河、考え込むが出て来ない。

千花「秋なんてつまんないよ」

春子「そんな事ないよ。おばあちゃん秋も好きよ」

大河「え?なんでなんで?」

春子「すすきが原っぱ一面に広がるところでかくれんぼすると楽しいのよ。

 おばあちゃんすすきが大好きなの」

大河「へえーでもこの辺りにすすきの原っぱあるかな?」

千花「探してみたいな。ねえおばあちゃん、見つけたら一緒に行こうよ」

春子「もちろん!退院したら行きましょう」

   美由紀、枕元の花を手入れしている。

美由紀「二人ともおばあちゃんに無理させたらだめよ」

大河「でも退院してからだから…」

美由紀「お義母さん、この花しおれかかってるから捨てますね」

千花「でも私たちの摘んできたお花だよ?」

美由紀「ただでさえ汚いのに枯れたらもっと汚いでしょ。

 今のうちに捨てておかないと」

   美由紀、花をゴミ箱に捨てる。春子悲しそうにそれをみている。

   と、戸をトントンとノックする音。

   すぐに戸が開き、佐藤進(44)が入って来る。

進「おっと、来てたのか。美由紀さん」

   美由紀、不機嫌そうに軽く会釈する。

   春子は進の顔も見ず、窓の外を見ている。

   大河、千花は不穏な空気を察して固まる。

春子「(無愛想に)進、あんた今までどこをほっつき歩いてたんだい」

進「やあ母さん、久しぶり。親父が亡くなってから会ってないから

 三年ぶりくらいか?具合はどうだい?」

春子「あんた今どこで何の仕事してるの?」

進「今はまあ、いろいろとね。お母さんは何も心配しなくていいんだよ」

   美由紀、進をにらみつけながら荷物をまとめる。

美由紀「お義母さん、私たちそろそろ帰ります。

 また来ますね。(大河と千花に)ほら、おばあちゃんに挨拶して」

大河「じゃあねおばあちゃん」

千花「ばいばい」

春子「(手を振りながら)二人ともまたね」

   病室の戸をぴしゃりと閉める美由紀。

 

○鈴木正の家・リビング(夜)
   ネクタイを外している佐藤正(41)

   イライラしながら唐揚げを電子レンジに入れている美由紀。

正「…そうか、兄さんにも困ったもんだ」

   正、椅子に腰掛ける。

美由紀「困ったじゃすまないわよ。

 三年前、お義父さんが亡くなった時もこんな感じだったじゃない。

 今まで連絡もしてこなかったのに突然ひょっこり現れて!」

   電子レンジがピーピーと鳴る。

   美由紀イライラしながらレンジの扉を乱暴に開ける。

美由紀「(皿に唐揚げを盛りつけながら)どうせ今度はお義母さんの遺産目当て

 なんでしょ。美味しい思いだけしようとして…あの人には絶対渡さないから!」

   美由紀、盛りつけ終わった皿を無造作に正の前に置く。

   正、困った顔をしながら唐揚げを食べる。

 

○谷の丘中央病院・入院病棟廊下

   綺麗にラッピングされたすすきを手に春子の病室へと向かう美由紀。

   春子の病室の前でノックして入る。

 

○同・個室

美由紀「こんにちは。美由紀です。具合如何ですか?」

   春子何も答えない。

美由紀「今日はお義母さんが好きだっておっしゃってたすすきを買ってきたんです」

   美由紀すすきを花瓶に入れようとする。春子が怒った顔をしている。

美由紀「どうかされたんですか、お義母さん」

春子「私は買ってきたすすきが欲しい訳じゃない。あんたは何もわかってない」

美由紀「え?」

春子「あんたの優しさは嘘しかない。もう来なくていい。

 あんたも進も!もう来るな!」

   美由紀、驚いてすすきを落としてしまうがそのまま逃げるように立ち去る。

   床にすすきが散らばっている。

   春子、背中を丸め布団をぎゅっと握りしめる。

 

○道

   大河と千花がきょろきょろしながら歩いている。

千花「あ、おにいちゃんあれ!」

大河「あった?」

千花「うん、早く来て!」

 

○すすきが広がる草原

   大河が急いで走る。千花はすでに原っぱの奥へ進んでいる。

千花「すごい!本当にかくれんぼができるね」

大河「おばあちゃんが退院したらやろうよ。かくれんぼ」

千花「おばあちゃん喜ぶね!」

   二人笑う。

 

○鈴木正の家・リビング(夕)

   美由紀がご飯の支度をしている。大河と千花はテレビを観ている。

   と、電話がかかってくる。美由紀が受話器を取る。

美由紀「はい、鈴木です…え?お義母さんが…?」

 

○谷の丘中央セレモニーホール・入口(夜)

   「鈴木家通夜」と書いた大看板が置かれている。読経が聞こえる。

 

○同・内装(夜)

   棺が置いてある。その上には生前の春子の遺影が飾られている。

   皆下を向き悲しんでいる様子。

   その中で一段と明るい進。正と美由紀のところにふらふらとやってくる。

進「正、こんな日にあれなんだけど、母さんの遺産は俺のところにも来るよね?」

   正が口を開こうとする。

美由紀「…よくそんなことが言えるわね。あんたのところに遺産なんか行かないわよ」

進「なんだよ。俺は息子だぞ。お前はしょせん他人じゃねえか」

美由紀「私の方がお義母さんにたくさん尽くしてきたのよ!」

正「兄さん美由紀やめろよ。みんな見てるぞ」

進「だからなんだってんだ。俺は遺産を貰う権利があるぞ!」

美由紀「あんたにそんな権利なんかないわよ」

正「(大声で)二人とも黙れ!」

   美由紀、進びっくりして動かなくなる。

正「(静かに)母さんの遺産はないんだ。

 借金が少しだけある…遺産なんて…本当にないんだよ」

   美由紀、進がっくりと肩を落とす。

 

○すすきが広がる草原

   大河、千花がはしゃいで走り回っている。正、それを見ながら微笑んでいる。

大河「千花ーどこだー?」

   千花が大河の後ろから現れる。

千花「ここだよ」

大河「うわっびっくりした!」

   笑い会う大河と千花、正の方に来る。

千花「おばあちゃんともっとたくさん遊びたかったなあ」

大河「このすすきの原っぱ、おばあちゃんが見たら喜んだだろうね」

正「(空を見上げて)大丈夫、きっと天国で見てるよ」

大河「…そうだね」

千花「ねえねえ、今度はお父さんも一緒にかくれんぼしようよ」

大河「お父さん鬼ね」

   二人笑いながら走って行く。正ゆっくりとすすきの草原の中を歩き始める。

進め秒針@時計

人物

早川和人(12)小学生

早川亜紀(44)OL・和人の母

山岡忠志(52)会社員・亜紀の上司

 

 

 

○早川家・和人の部屋(朝)

   ベッドに横になっている早川和人(12)がベッド横のアナログ目覚まし時計を 

   見つめている。時刻は九時八分を指している。

 

○同・リビング(朝)

   早川亜紀(44)が携帯電話で話している。

亜紀「ええ、まだ少し熱があって…もう一日学校を休ませて欲しいんです。

 はい…お手数おかけします。では失礼致します」

   電話を切り、すぐに和人の部屋に向かう亜紀。

 

○同・和人の部屋(朝)

   ピピピという体温計の音がして和人が体温計を取り出す。亜紀が入って来る。

亜紀「どう、やっぱり熱、下がらない?」

和人「うん、三十七度九分あるよ」

亜紀「そう、ごめんね。お父さんもお母さんも仕事で側にいてあげられなくて」

和人「今日は一人でも大丈夫だよ」

亜紀「でもやっぱり心配だな。今からでも上司に頼んで…」

和人「大丈夫だって」

亜紀「そう?六時半には必ず帰ってくるから待っててね」

和人「うん」

亜紀「お昼ご飯はレンジの中に入れたから食べられそうなら食べてね。

 もし食べられないなら冷蔵庫にゼリーが入ってるからそれ食べて」

和人「プリンが良かったな」

亜紀「じゃあ帰りに買ってくるわ。定期的に熱測ってね。

 お昼過ぎに一度電話かけるから」

和人「わかった」

亜紀「じゃあお母さんは会社に行くね。いい子にしてるのよ」

和人「大丈夫だよ。ちゃんと寝てるから」

亜紀「そう、行ってくるね」

和人「いってらっしゃい」

   亜紀、和人の部屋から出る。和人は時計を見る。時刻は九時十三分。

和人「まだ五分しか経ってないじゃん」

   寝返りをうってふと部屋に置いてあるテレビゲーム機を見る。

和人「…ゲームしたいな。でも学校休んでるし、頭も痛いからやめておくか」

   和人ゆっくり目を閉じる。

 

○(夢)同・和人の部屋

   和人がゲームをしている。画面にはゾンビを撃って殺すプレイヤーとどんどん倒

   れていくゾンビ達が映っている。ふと電気が消えて真っ暗になるが、すぐに電気

   がつく。すると部屋中にゾンビが立っていて和人を襲おうとする。

   絶叫する和人。

 

○同・和人の部屋(朝)

   目を覚ます和人。汗びっしょりになっている。

和人「夢…か…」

   時計を見ると九時三十二分になっている。

和人「まだ九時半か…早く六時半にならないかな」

   和人布団をかぶる。

 

○赤丸商事・オフィス
   亜紀がパソコンに向かい、プレゼンテーションの資料を作成している。

亜紀「和人、大丈夫かな…」

   安紀、時計を見る。時刻は十一時五十七分になっている。

 

○早川家・リビング

   和人がレンジの中を見ている。えびドリアが中に入っている。和人、頭を

   かきむしってから冷蔵庫の方に行き、みかんゼリーを手に取る。

 

○赤丸商事・オフィス

   亜紀が机の前で携帯電話を手に家に電話しようとしている。

   そこへ山岡忠志(52)がやってくる。

山岡「早川さん、資料出来ましたか?」

亜紀「あ、はい」

山岡「出来ればちょっとだけ打ち合わせたいんですが、大丈夫ですか?」

亜紀「はい。大丈夫、です」

   ちらりと時計を見る安紀。時刻は十二時三十八分になっている。

 

○早川家・和人の部屋

   空になったゼリーの容器が机の上に置いてある。和人は布団をかぶって

   時計を見ている。時刻は十二時四十三分。

和人「まだお昼か。さっきから秒針全然進まない気がする」

   和人寝返りをうつ。

和人「お母さん、お昼過ぎに電話するって言ってたけどお昼過ぎって何時くらいなん

 だろ」

   和人ゆっくり目を閉じてまた開ける。時計を見る。

   時刻は十二時四十五分。

和人「(ため息)二分しか経ってないし」

   和人目を閉じる。

 

○(夢)小学校・教室

   クラスメイトのユウナちゃんとプリンを食べている。

   するとクラスメイトのイシザカ君が和人を突き飛ばす。

   びっくりした表情の和人。

 

○(夢)同・廊下

   気がつくと廊下に立っている和人。イシザカ君がすごい形相で和人に迫ってく

   る。長い廊下を走って逃げる和人。ふと後ろを見ると追ってきているのは

   イシザカ君ではなく大きな黒い犬になっている。追いつかれそうになる和人。

 

○同・和人の部屋

   目を覚ます和人。またしても汗びっしょりになっている。

和人「また夢か。嫌な夢だったなあ」

   時計を確認する和人。十四時一分になっている。

和人「なんだか知らない間に時間が経ってる」

 

○赤丸商事・オフィス

   亜紀が机の前で片方で携帯電話を持ち、

   もう片方でおにぎりを持っている。

亜紀「打ち合わせ、ちょっとって言ってたのに」

   亜紀、時計を見る。時刻は十五時十二分。家に電話する亜紀。

 

○早川家・和人の部屋

   電話が鳴っている事に気がつき、早足でリビングに向かう和人。

 

○同・リビング

   和人が電話の受話器を取る。

和人「もしもし」

亜紀の声「もしもし和人?お母さんだよ。どう?調子は?」

和人「うん、大丈夫だと思う」

 

○赤丸商事・オフィス

   亜紀が携帯電話を持ち替える。

亜紀「熱測った?」

和人の声「あ、測るの忘れてた」

亜紀「ええー後でちゃんと測ってね。ご飯は食べられた?」

和人の声「みかんゼリー食べたよ」

亜紀「じゃあえびドリアは食べられなかったんだ」

和人の声「風邪の時にえびドリアは食べられないよ」

亜紀「言われてみれば…確かに。夜おかゆ作るね。それなら食べられるでしょ」

和人の声「多分」

亜紀「そろそろ電話切るね。熱測っておくのよ。じゃあね」

和人の声「うん。早く帰って来てね」

 

○早川家・リビング

   和人が受話器を置き、部屋に戻る。

 

○同・和人の部屋

   体温計を取り出し、脇に挟む和人。時計を見ると十五時三十分。

和人「あと三時間くらいか」

   和人目を閉じる。

 

○同・和人の部屋(夜)

   目を開けると亜紀が和人の額に手を乗せている。

 

亜紀「あ、起きた。少しだけ早く帰ってこれたよ」

   和人時計を見る。十七時四十一分。

和人「お、おかえりなさい。あれ?…夢見なかったな」

亜紀「さっきは夢見たの?風邪の時って変な夢見るよね。

 そうだ、約束のプリン買ってきた。食べる?」

和人「うん」

   和人プリンを受け取る。

亜紀「熱もう一回測った方がいいね」

   亜紀が体温計を渡し、和人脇に挟む。

和人「今日一日長かったような気がしたけど終わってみると

 そんなに長くなかったな」

亜紀「時間ってそんなもんだと思うな」

   ピピピと体温計の音がする。和人、亜紀に体温計を見せる。

亜紀「熱下がったみたい。良かった。おかゆ作るね」

   亜紀にっこり笑う。

妹の鏡@鏡

人物

春山光一(16)高校生

秋月桐花(16)高校生

五十嵐一真(16)高校生

横井空人(16)高校生

秋月清美(45)主婦・桐花の母

 

 

○大沢高校・男子トイレ

   春山光一(16)が鏡の前に立っている。

   鏡に映る自分の姿を見つつ、髪の毛など身だしなみを整えて頷く春山。

春山「よし!」

   春山、トイレから出て行く。

 

○同・1年4組教室

   五十嵐一真(16)と横井空人(16)が教室の窓側の隅で

   グラビア雑誌を見ている。二人の間に春山が割り込む。

春山「おい、そんな雑誌学校に持ってくるなよ」

五十嵐「堅いこというなよ」

横井「(写真を指指し)この子可愛いな。あ、でもなんつーか、うちのクラスの秋月に

 似てね?」

春山「秋月?ああ、まだ話したことないな」

横井「秋月って見た目可愛いけど、なんつーか暗いんだよねえ」

五十嵐「しかもなぜかいつも手鏡持って見てるし」

春山「自分の顔が好きなんじゃないの?」

横井「でもなんつーか不気味だよな」

五十嵐「だよなあ。可愛くて成績もいいのに残念だよな」

春山「…俺、ちょっと話しかけてみる」

横井「うわー春山、また口説くのか!」

春山「ちげーよ。声かけるだけ!」

   秋月桐花(16)が廊下側の隅の席で手鏡を見ている。

   春山がごく自然に近づく。

春山「秋月さん!」

   桐花びっくりして手鏡をしまう。

春山「あ、突然話しかけてごめんね。秋月さんいつも一人でいるからちょっと

 気になって…良かったら俺と友達になろうよ」

   桐花ゆっくり頷く。

春山「(にっこり笑って)よろしくね!」

   窓側の方で横井と五十嵐が春山の様子を見ている。

横井「春山って、なんつーか、よくやるよな」

五十嵐「秋月さん困ってるけど大丈夫なのか」

横井「さあ?」

 

○同・教室の廊下(朝)

   朝の挨拶があちこちから聞こえてくる。

   春山あくびをしながら廊下を歩いている。

 

○同・1年4組教室(朝)

五十嵐「春山おはよ」

春山「おはよう五十嵐」

   春山、桐花の席を見る。桐花はすでに登校しており、

   相変わらず手鏡を見ている。

春山「(大声で)秋月さんおはよう」

   一瞬、しーんとなる教室。桐花はびっくりして手鏡をしまう。

   春山、桐花の側に行く。

春山「秋月さん、宿題やった?俺ちょっと自信なくて…今日先生に当てられそうだし」

   桐花ゆっくりノートを出す。そのやり取りを見ている五十嵐。

五十嵐「…本当よくやるよなあ」

 

○同・教室前の廊下(夕方)

   春山と横井と五十嵐が三人で話している。

横井「今日カラオケ行くか!」

五十嵐「え、じゃあ他に誘う?」

   そこへ手鏡を持った桐花が教室から出てくる。

春山「あ、秋月さん。今からカラオケ行かない?」

   桐花びっくりして手鏡をしまう。

桐花「あ、あの…早く帰らないと…ならないので…お、おと…か…が」

春山「そっか、じゃあ今度都合のいい時に」

   桐花ゆっくり頷く。

春山「じゃあまた明日ね」

   桐花頷き、小走りで去る。

横井「春山すげー!俺、秋月さんがしゃべってるの初めて見たわ」

春山「うん、俺も初めて見た」

五十嵐・横井「ええ?」

 

○同・1年4組教室(朝)

   桐花の席の近くで春山と横井が話している。

   そこへ五十嵐が鞄を持ってやってくる。

五十嵐「おはよっす」

春山「おはよう五十嵐。今日はいつもより遅いじゃん」

五十嵐「なんか電車が遅れててさ」

   そこへ桐花がやってくる。

春山「あ、秋月さん、おはよう」

桐花「あの、おはようございます」

春山「(少し笑って)なんで敬語?」

桐花「あ、じゃあ、敬語やめます」

   横井と五十嵐顔を合わせてにっこり笑う。

横井「秋月さんそれじゃ敬語のままだよ」

五十嵐「クラスメイトなんだし、リラックスしようぜ」

桐花「あ、えっとはい!じゃなくてうん」

   四人顔を見合わせ、笑う。

 

○同・教室前の廊下(夕方)

   春山がドアの近くで携帯電話を見ている。

   桐花が手鏡を持ちながら帰ろうとドアを開ける。

春山「あ、秋月さん、今帰るとこ?」

桐花「あ、うん」

春山「良かったらここの近くの公園で少し話しでもしない?」

桐花「あ、でも乙花が…」

春山「乙花?」

   桐花、手鏡をしまう。

桐花「ううん。なんでもないよ」

 

○大沢公園(夕方)

   春山と桐花がブランコに乗って楽しそうに話をしている。

春山「あ、もうこんな時間だけど大丈夫?」

桐花「うん、平気」

春山「良かった。いやー秋月さんと話してるとなんか、楽しいよ」

桐花「私も春山君と話せて楽しい。クラス人と長く話すの久しぶりだから」

春山「じゃあ秋月さんは家族とかとよく話すの?」

桐花「…こんなこと話すの初めてだからびっくりするかもしれないけど…」

春山「ん?」

桐花「私ね、双子の妹がいるの。名前は乙花」

春山「へえ、そうなんだ」

桐花「でも乙花は交通事故で二年前に亡くなったの」

春山「え」

桐花「私すごく悲しかった。けどこの手鏡に乙花が幽霊になって会いに来てくれるよう

 になったの」

春山「え、ゆ、幽霊?」

桐花「うん、乙花は私より明るくて勉強も出来たから私の事励ましてくれるし、

 ときどき勉強も教えてくれるんだ」

春山「(動揺しつつ)そ、それはすごいな。

 鏡の中に妹がいるなんてちょっと怖いけど…まあ、うん、すごいと思うよ」

桐花「(嬉しそうに)そう、思う?」

春山「うん、勉強教えてくれるとかちょっとうらやましいな。

 でも…乙花ちゃんはずーっとその手鏡の中にいて本当に幸せかな?」

桐花「え」

春山「俺は死んだらどうなるとかあんまり考えたことなかったけど、生まれ変わりとか

 あるかな、って思ってるんだ。だから乙花ちゃんも鏡の中にいるより生まれ変わって

 また生きたいんじゃないかな?」

桐花「そう、かな?」

春山「…今から秋月さんちに行ってもいい?俺も祈るから秋月さんも祈ろうよ。

 乙花ちゃんの成仏を、さ」

桐花「…わかった。ついてきて」

 

○桐花の家(夕方)
   桐花と春山が玄関に入ってくる。出迎える秋月清美(45)。

桐花「ただいま」

春山「お邪魔します」

清美「桐花のお友達?こんにちは。ささ、上がってちょうだい」

桐花「私部屋で着替えて来るね」

   桐花二階に上がる。

春山「あの僕、乙花さんの仏壇に手を合わせたいんです。いいですか?」

清美「乙花?」

春山「すみません、無理言って」

清美「いえ、あの…乙花ってどなた?」

春山「え?桐花さんの双子の妹だって…」

清美「うちの桐花は一人っ子よ」

   春山一瞬驚いてから急いで靴を脱ぐ。

春山「…ちょっと失礼します」

   春山急いで階段を上がり、桐花の部屋に向かう。

 

○同・桐花の部屋(夕方)

ドアを開けると部屋で手鏡を見ながら何かつぶやいている桐花。

春山「桐花!乙花はもともといなかったんだ。

 君には妹なんて最初から存在してないんだ!」

   春山、手鏡を桐花から無理矢理奪い取る。

桐花「返して!」

   手鏡を覗き、驚く春山。手鏡には春山の姿は映らず、

   桐花によく似た女の子が映っている。

春山「こ、この手鏡…なんで…?」

   桐花がゆっくりと立ち上がる。

桐花「私の妹を…返して」

   絶叫する春山。春山の瞳に桐花の姿が映っている。

 

私の人生@写真

人物

佐々木忍(28)無職

林清(58)玉ねぎ農家・忍の父

佐々木幸恵(56)川島銀行社員・忍の母

山田昌裕(41)今石商事・面接官

 

 

 

○アパート・ポスト前

   佐々木忍(28)がポストを開けて一通の手紙を取り出す。

   思わず手で開封する忍。

   中には紙が一枚入っており、不採用の通知である。忍ため息をつく。

忍「またか」

 

○忍の部屋(夜)

   忍がむくんだ足をもみながら、電話している。

忍「だから!派遣切りにあって仕事がないの!

 面接受けてるけどいつも不採用。

 とりあえず出来る事はなんでもやるからお母さんのところで求人ない?」

 

○川島銀行・社内(夜)

   佐々木幸恵(56)が書類をチェックしながら携帯電話で話す。

幸恵「今お母さん仕事中なんだけど」

忍の声「ごめん、でも本当困ってて」

幸恵「じゃあ、あなたのお父さんの田舎…

 出雲にでも遊びに行って少し気分でも変えてきたら?」

忍の声「ええ?そうじゃなくて」

幸恵「切るよ。じゃあね」

 

○忍の部屋(夜)

   電話を切られて呆然とする忍。

忍「出雲なんて行ってる場合じゃないじゃん」

 

○今石商事・社内

   狭いオフィスの応接室の一角。面接をしている忍と面接官の山田昌裕(41)。

山田「では、あなたの長所を教えて下さい」

忍「はい、与えられた仕事は最後まできちんとやり通します」

山田「…あなたは仕事を与えられてからやるタイプなのですか?」

忍「え?」

山田「うちは小さい会社だからそういう方は

 ちょっと続けづらいかもしれないですね」

忍「あ、いえ、でも…何でもやりますので!」

山田「(苦笑して)なんでも、ねえ…」

忍「いえ、頑張ります」

山田「では面接はこれで終わりです。結果は後日郵送致しますよ」

忍「ありがとうございました。よろしくお願い致します」

 

○忍の部屋(朝)

   忍、起き上がりふらふらと玄関を開ける。

 

○アパートポスト前(朝)

   ポストを覗く忍。今石商事からの手紙が来ている。

   その場で手で開封。中には不採用の通知。

忍「やっぱりだめか」
   忍、部屋に戻る。

 

○忍の部屋(朝)

   トランクに荷物を詰める。電話をかける忍。

忍「もしもし、お父さん?久しぶり…」

 

出雲空港・外
   トランクを引きずりながらきょろきょろしている忍。

   軽く手を振っている作業服に帽子の林清(58)を見つけて足早に歩き出す。

忍「お父さん…突然押しかけてごめんなさい」

林「ああ、いや、大丈夫だ」

忍「ちょっと今無職になっちゃっててこれからどうするかゆっくり考えたいなーって

 思って来たんだけど…」

林「まあ、ゆっくりすればいいよ」

   林、歩き出す。後に続く忍。

 

○軽トラック・車内

   景色を見ている忍。玉ねぎ畑が広がっている。

林「俺今、玉ねぎを作ってるんだ」

忍「へえ、農業やってるんだ」

林「まあな。お前もやるか?」

忍「でも私今東京に住んでるし」

林「俺もお前と母さんで東京にいた時サラリーマン生活だったからわかるけど」

   林、帽子をかぶり直す。

林「人に言われた事を頑張るより、自分で決めた事を頑張るのもいいと思うぞ」

忍「そ、それは東京でも出来るじゃん」

林「お前、何かを自分で決めて頑張った事あるか?」

   忍決まり悪そうに風景に目をやる。川が流れている。

林「…もうすぐ着くぞ」

   林の運転しているトラックがウィンカーを出して曲がる。

 

○林家の庭

   軽トラックから降りる忍。荷台に乗せていたトランクを持ち上げる。

   見ると林の家がある。こぢんまりとした民家という印象の家。

忍「…わぁ」

林「じいちゃんが亡くなってからここに一人で住んでるんだ」

   先に家に入る林。

忍「なんか農家っぽいな」

   忍も中に入る。

 

○林家・居間

   林が冷たい麦茶を二人分、そそいでいる。座布団に座ろうとする忍。

林「まず、仏壇に手を合わせてくれ。俺の両親、お前のじいちゃんとばあちゃんだ」

忍「そういや会った事ないなあ」

   忍、仏壇の前に座り手を合わせる。

林「そうだな。ばあちゃんは俺が6つの時に亡くなってるからな。

 じいちゃんは8年くらい前、だったかな」

   忍、仏壇に飾ってある二つの遺影を見る。

   祖母の写真を見ると忍とよく似ている。

忍「おばあちゃん、私に似てる」

林「似てるって、ああ、顔か」

忍「うん。おばあちゃんはどうして早くに亡くなったの?」

林「俺はあんまり覚えてないから親父から聞いた話なんだけどな」

   林いっきに麦茶を飲み干す。

林「昭和39年7月にこの島根県で集中豪雨があって、出雲は特にひどかったんだ。

 さっき川があっただろ」

   うなずく忍。

林「そこが氾濫して、ばあちゃんは死んだらしい。

 畑が心配で見に行ったってのが原因みたいだな」

   忍再び遺影を見つめる。

忍「そうなんだ」

林「29歳だった」

忍「私の一つ上だ」

林「俺としては仕事に一生懸命なのはいいが、

 畑より自分の命を心配して欲しかったな」

忍「…でもなんか、私と同じくらいの年齢で夫も子どももいて…

 私と似た顔なのに全然 違う人生を歩んでるって感じ」

林「そうだな。でも同じ人生を歩む人間なんていないんじゃないか?」

忍「確かに…だけど私仮に今、この年で死んだら何も残せないな」

林「…見てみるか?畑」

 

○玉ねぎ畑

   軽トラックが止まる。林と忍、中から出てくる。

忍「うわーこれ全部玉ねぎ?」

林「6月くらいに本格的に収穫するんだけど今も十分食べられる。

 小さいけど結構うまいぞ」

忍「食べてみたいな」

林「(指指して)その端のやつなら抜いていいぞ」

忍「うん」

   忍、玉ねぎを抜こうと引っ張るが、うまく抜けずに茎が折れる。

忍「…やっぱり何やってもだめだなあ私」

林「大丈夫だ。まあ最初はそんなもんだろ」

   林、茎の折れた玉ねぎを抜く。

林「握るところが長すぎたんだよ。もう一回やってみろ」

忍「ねえ、自分で選んでいいかな?」

林「ああ、気に入ったやつ抜いてみろ」

   忍、玉ねぎを念入りに探して抜く。今度は根までうまく抜ける。

忍「採れた。すごい小さいけどちゃんと玉ねぎしてる」

林「そうだな」

忍「ねえ、もっと抜いていい?」

林「あんまり大きく育ってるやつはだめだぞ」

忍「わかった。ねえ、お父さん」

   忍、玉ねぎを抜きながら話を続ける。

忍「私も農業やってみようかな」

林「でもお前さっき…」

忍「今まで将来とか何も考えてなかった。

 お母さんみたいな人生歩むのかなって勝手に思ってた。

 でもお母さんみたいにはなれなかった」

林「さっきも言ったが…」

忍「うん。私はお母さんともおばあちゃんとも違う…」

   忍、収穫した玉ねぎを見つめる。

忍「私は私の人生を選ばないとだめだよね」

林「そうか、まあ自分でゆっくり決めなさい」

忍「…うん。あ、ねえ、玉ねぎって採れたて食べれるの?」

林「泥ついてるから洗った方がいいぞ」

忍「あ、そっか。じゃあ水で洗おう」

   忍と林、玉ねぎを持って軽トラックへと向かう。

   風が少し吹いている。

勇気の帽子@帽子

人物

一ノ瀬志帆(17)高校生

清水香(17)高校生

吉田雄輝(18)高校生

一ノ瀬舞(14)中学生・志帆の妹

中林彩(17)高校生

大長卓(17)高校生

少年

老婆

 

 

 

○公立道城高校・グラウンド(夕方)

   学生達がサッカーをしている。

 

○同・2階 2年B組教室(夕方)
   窓からグラウンドを見ている一ノ瀬志帆(17)風でカーテンが揺れている。

  そこへ帰り支度を済ませた清水香(17)が志帆の隣にやって来る。

香「志帆、また見てるの?えーっと…山田先 輩?」

志帆「吉田先輩」

香「まあ、どっちでもいいや。もう帰ろうよ。 なんか…やばいから…」

志帆「やばいって…?」
   志帆、教室の中を見渡す。クラスメイトが何人か残っている。

   派手な格好をした中林彩(17)が背の高い大長卓(17)に文句を言っている。

彩「つーかさ、あんたマジでかすぎ。うっとうしいわ」

   大長、無言で机から教科書を取り出し、鞄に入れようとする。

彩「無視すんなや」

   彩、大長の鞄を蹴る。教科書が床に散らばる。それを無言で拾う大長。

   他のクラスメイトは見て見ぬふり。志帆は拳を握りしめるが何も言えない。

 

○バス車内(夕方)

   混んでいる車内。椅子に座ってスマホを見ている志帆。

   停留所から重そうな荷物を持った老婆が乗って来る。老婆が志帆の前に立つ。

志帆「あ…」

   志帆、席を譲ろうと立とうとするがためらう。

   別の席に座っている女性が老婆に席を譲る。志帆、拳を握りしめる。

 

○一ノ瀬家・志帆の部屋(夜)
   お風呂上がりの一ノ瀬舞(14)がだらだらとテレビを観ている。

   志帆は机に向かって宿題をやっている。

舞「あ、そうだお姉ちゃん、今日仕入れた噂、聞いてくれる?」

志帆「勉強中」

舞「(無視して)あのね、最近この辺りで勇気の帽子っていうのが

 出回ってるらしいよ!」

志帆「(興味なさそうに)ふうん」

舞「見た目は黄色で羽の刺繍がしてある超ださい帽子なんだけどね、

 今まで勇気がなくて出来なかった事もその帽子をかぶると

 なんでも出来ちゃうんだって!すごいよね」

志帆「(興味なさそうに)すごいね」

舞「もう!聞いてないでしょ」

志帆「だから勉強してるんだって!自分の部屋に戻ってよ」

舞「ちぇー」

   舞、志帆の部屋から出る。

 

○道城公園(朝)
   ベンチに座ってジャムパンを食べている志帆。

   ふと見ると少年が木の枝にひっかかっている帽子を取ろうとして

   ジャンプしている。

志帆「あの高さなら私でも取れそう」

   志帆、パンを置いて木に近づく。

志帆「私が取ってあげるよ」

   志帆、思い切りジャンプをする。帽子が地面に落ちる。

志帆「やった!良かったね」

   志帆、振り返ると少年はいなくなっている。

   帽子を拾い上げる志帆。黄色で羽の刺繍がしてある。

志帆「…勇気の帽子?まさかね」

   志帆、帽子をかぶってベンチに戻る。

 

○道城高校・2年B組教室(朝)

   志帆、帽子をかぶったまま教室に入る。彩が大長の机を蹴っ飛ばしている。

彩「うざいんだよ。学校くんなよ」

   大長ぼーっと立ったままうつむく。

   他のクラスメイトは見て見ぬふりをしている。

   志帆、すぐに大長の元へかけより机を元に戻す。

志帆「何してるの!やめなよ!」

彩「は?別にあんたに関係ないじゃん」

志帆「こういうことされると見ててイライラするからやめてくんない?」

   彩、舌打ちして教室から出て行く。クラスメイト思わず拍手。

   よくやった、志帆かっこいいなどと口々に言う。

志帆「(つぶやく)考える前に勇気が出てた」

 

○同・購買部前

   香と帽子をかぶった志帆がパンを選んでいる。

香「志帆、あんたずっとその帽子かぶってるね。正直言うとその帽子ださいよ?」

志帆「ださくてもいいの。これかぶってると なんか勇気が湧いてくるんだよね」

香「ふーんって、あ、私先生にプリント出してない。

 志帆代わりにパン買っておいて!」   

   香、急いで教室に戻って行く。

志帆「何のパンにすればいいのか聞きそびれた…ジャムパンでいいかな」

   志帆ふと隣を見るといつの間にか吉田雄輝(18)が立っている。

志帆「こんにちは」

吉田「あ、こんにちは」

志帆「あの、吉田先輩…ですよね。いつもグラウンドでサッカーしてる…」

吉田「え、よく知ってるね。君は二年生?」

志帆「はい、一ノ瀬志帆っていうんです」

吉田「一ノ瀬さんはよく購買部でパン買うの?」

志帆「はい、うちは母がお弁当作る暇がないのでいつもパンなんです」

吉田「そうなんだ。俺はいつも母親が弁当作るんだよね。どのパンが美味しいの?」

志帆「ジャムパンです!」

吉田「じゃあジャムパン買ってみるよ。あ、すみませんこれ下さい

 …じゃあね、一ノ瀬さん」

   吉田、ジャムパンを持って教室へと戻っていく。

   志帆、嬉しくてガッツポーズする。

 

○バス車内(夕方)

   混んでいる車内。また椅子に座ってスマホをいじっている

   帽子をかぶった志帆。

   そこへ前回と同じ停留所から大きな荷物を持った老婆が乗ってきて

   志帆の前に立つ。志帆すぐに立ち上がる。

志帆「あの、良かったら座って下さい」

   老婆、びっくりして喜ぶ。

老婆「いいんですか?ありがとう」

   老婆椅子に座る。志帆、嬉しくてガッツポーズ。

志帆「(つぶやく)この帽子…本物だ」

 

○道城高校・3年生の靴箱前(朝)

   帽子をかぶった志帆が書いた手紙を見返している。

   手紙には『吉田先輩へ伝えたいことがあります。

   今日の16時に道城公園で待ってます。2年B組一ノ瀬志帆より』と書いてある。

   志帆、吉田の靴箱に手紙を入れ、教室に戻る。

 

○同・2年B組教室

   誰もいない教室。彩がきょろきょろしながら入ってくる。

   彩、志帆の席に置いてある勇気の帽子を見つけ、手に取る。

彩「だっせえ帽子」

   彩、帽子を持って教室を後にする。

 

○同・2年B組教室(夕方)

   時計の針が15時半をさしている。志帆、鞄の中をひっくり返して

   帽子を探している。香が心配そうに近づいてくる。

香「見つかった?」

志帆「ううん、ない」

香「もうちょっとで時間でしょ?あの帽子がないと困るの?」

志帆「あの帽子がないと私…」

   いつの間にか彩が後ろに立っている。

彩「あのだっせえ帽子、そんなに大事だったんだー」

志帆「彩!あの帽子がどこにあるか知ってるの?」

彩「あっちに置いておいたよ」

   彩がゴミ箱を指さす。ゴミ箱に駆け寄る志帆。

   帽子はずたずたに引き裂かれている。

志帆「彩!なんて事するの!」

彩「別にいいじゃん。そんなだっせえ帽子の一つや二つ。

 また親に買ってもらえばー?」

   彩、鞄を持って教室から出て行く。

   志帆、悔しくて涙がぽろぽろこぼれ落ちる。

志帆「この帽子が…この帽子がないと私…」

香「志帆…大丈夫だよ」

志帆「…大丈夫じゃないよ。この帽子のおかげで彩に言いたいこと言えたし、

 吉田先輩 とも話せたのに…この帽子がないと私…何も出来ないよ…」

香「…志帆、もう4時になるよ。先輩待ってるよ」

志帆「…でも私…」

香「とりあえず行くだけ行きなよ。先輩待たせるのも悪いじゃん。

 うまく話せなくても、告白出来なくてもいいんじゃない?それが志帆なんだからさ」

   志帆涙を拭く。

志帆「…先輩…待っててくれてるかも…私行ってみる。勇気が出なくても…

 とにかく行ってくるよ」

   志帆、鞄を持って公園へと走る。

 

醤油ラーメン二つ@マッチ

人物

川田美穂(35)専業主婦

川田治(36)会社員・美穂の夫

金子ムツ子(85)無職

伊藤大晴(63)ラーメン屋「竜龍」店主

大沢賢悟(25)ラーメン屋「竜龍」店員

女A

 

 

○川田家・リビング(朝)

   掃除機をかける川田美穂(35)。

   すぐ近くで川田治(36)がソファに座りつつパソコンで仕事をしている。

   美穂が掃除機の電源を切る。

美穂「こんなに天気のいい日曜日なのに仕事持ち込んでるの?」

治「仕方ないだろ。お前こそこんなに天気のいい日曜日なのに部屋の掃除なんか

 してるのか」

美穂「仕方ないでしょ。暇なんだから」

   家の電話が鳴る。美穂が受話器を取る。

美穂「もしもし」

ムツ子の声「あ、出前をお願いしたいんです」

   美穂、無言で電話を切る。

治「誰だったの?」

美穂「間違い電話。たまにかかってくるの」

治「でもお前、もっと愛想よくしろよ」

美穂「愛想よくしたってしなくたってお金が入ってくるわけじゃないし、

 別にいいじゃん」

治「そんな言い方…」

   再び電話が鳴る。美穂が受話器を取る。

美穂「もしもし」

ムツ子の声「すみません、出前をお願いしたいんです」

   美穂、すぐに電話を切ろうとする。

ムツ子の声「ラーメン屋さんでしょ?りゅうりゅうさん」

美穂「りゅ?え?」

 

○金子ムツ子の家・リビング(朝)

電話の前の椅子に腰掛けている金子ムツ子(85)手には古いマッチ。

ムツ子「ずっと前にお店でもらったマッチを見て久しぶりに

 あなたのところのラーメンを食べたくなったの」

美穂の声「はあ」

ムツ子「もう何年も前だからあなたは知らないかもしれないわね。

 おじいさんが生きてた頃にね、あなたのお店に何気なく入って

 醤油ラーメンを注文したの。

 食べたら美味しくてね、思わずおじいさんと二人で『うまい!』って

 言っちゃったのよ」

 

○川田家・リビング(朝)

   美穂が思わず笑みをこぼす。

美穂「そうなんですか」

ムツ子の声「だから今日みたいな天気のいい日曜日はいつもあなたのお店に行って

 二人で醤油ラーメンを食べたのよ」

美穂「へぇ」

ムツ子の声「でも今は足が悪くてお店まで行けないの…

 出前、お願い出来るかしら?」

   治が電話のやりとりを不思議に思い、美穂に近づく。

美穂「…わかりました。住所とお名前を教えていただけますか?」

   美穂、受話器を片手にメモを取る。

美穂「はい、醤油ラーメン一つですね。少々お時間いただきますけどよろしいですか?

 あ、お昼頃がよろしいんですね。はい、では失礼致します」

   ゆっくりと受話器を置く美穂。

治「お前、ラーメン屋でも始めたのか?」

美穂「たった今ね。ちょっとパソコン貸してくれる?」

治「あ、ああ」

   美穂、ブラインドタッチで検索サイトに『ラーメン りゅうりゅう』と

   入力する。

治「りゅうりゅうって?」

美穂「(パソコンをいじりながら)ラーメン屋さんの名前。

 ときどきかかってくるのってどうもマッチに載せた電話番号が

 うちの番号になってるからみたいなの」

治「ああーそれでそのラーメン屋に文句言うのか」

   美穂、手を止める。

美穂「違う。今の電話のおばあさんに『りゅうりゅう』の醤油ラーメンを

 届けてあげたいの」

治「…俺も何か手伝うか?」

美穂「(にっこり笑って)ありがとう」

 

○ラーメン屋『竜龍』・外

   客が一人、店に入って行く。

 

○『竜龍』・店内

   店内は客で賑わっている。伊藤大晴(63)が手早く麺を湯切りしている。

   入ってきた客を見てにっこり笑う。

伊藤「いらっしゃい!」

   奥で電話が鳴る。大沢賢悟(25)が電話を取る。

大沢「はい、『竜龍』です!出前ですか、ありがとうございます。

 醤油ラーメンを一つですね」

 

○川田家・リビング

   治、パソコンを閉じる。美穂が伸びをしている。

美穂「終わったー」

治「見つかって良かったよ」

美穂「『竜龍』結構近所だったね」

治「ああ、今度食べに行こうか」

美穂「あのおばあさんの家もこの辺りだったから意外と顔合わせた事あったりしてね」

治「さてせっかくこんな天気のいい日曜日なんだし、どこか行こうか」

   近くで救急車のサイレンの音が聞こえてくる。突然電話が鳴る。

美穂「はい、もしもし」

大沢の声「『竜龍』の大沢と申します。

 先ほど出前の注文いただいた住所に伺ったんですが、何かあったんでしょうか?」

美穂「どういう事でしょうか?」

大沢の声「家の前に救急車が止まってるんですよ」

美穂「救急車?」

   治が窓から外を見る。近所の家に救急車が止まっている。

 

○金子ムツ子の家の前
   大沢が配達用のバイクを止めて携帯電話で話している。

   背後には救急車が止まっている。

大沢「とにかく一度店に戻りますね。では失礼します」

   大沢電話を切ってバイクにまたがる。

 

○川田家・リビング

美穂、受話器を置く。治が窓から外を見ている。

治「救急車近所に来てるよ。あのおばあさん本当にうちの近くだったんだな」

美穂「とにかく行ってみよう」

美穂と治、急いで外に出る。

 

○金子ムツ子の家の前

   近所の人たちが群がっている。美穂、近くにいる女Aに声をかける。

美穂「あの、こちらに住んでる方、具合悪いんですか?」

女A「あなた、金子さんのお知り合い?」

美穂「最近ちょっと付き合いがあって…」

女A「金子さんね。突然具合が悪くなったみたいでなんとか自分で救急車は

 呼べたみたいだったけどね…着いた時はもう、手遅れだったんですって…」

美穂「え…」

女A「なぜか手にはマッチの箱が握られてたって。

 ご主人が亡くなられてだいぶ経つから、何か思いがあったのかしらね…」

治「マッチ箱…」

美穂、思わず両手で顔を覆う。それを見て治が美穂の肩を抱く。

 

○『竜龍』・店内(夕方)
   店にはカウンターに座っている美穂と治のみ。伊藤が麺を茹でている。

伊藤「なんか申し訳なかったですね。昔作ったうちのマッチが…」

美穂「それはもういいんです…(うつむいて)もう一週間かあ」

伊藤「金子さんておばあさん、よく覚えているんです。夫婦仲がとても良かったな。

 このところ全然いらっしゃらないから心配してたんですけどね」

治「やっぱり…最期に食べたかったんでしょうね。ここの醤油ラーメン…」

   伊藤、麺を湯切りする。

伊藤「…食べて…もらいたかったなあ」

   伊藤、片手で目頭をぐっと押さえる。そこへ大沢が出前から帰ってくる。

大沢「ただいま戻りましたー」

   伊藤、気を取り直して

伊藤「あ、おう、お疲れ」

   大沢、美穂と治を見て

大沢「あ、いらっしゃいませ。マッチの電話番号の方ですよね。

 すみません店長がうっかりして…」

美穂「いいんですよ本当。そのおかげでわかった事たくさんありますから」

治「美味しいと評判のラーメン屋さんも知れたし」

大沢「店長はおっちょこちょいですけどラーメンはうまいっすよ。

 味は保証します」

伊藤「おっちょこちょいは余計だよ。

 お待たせ致しました。醤油ラーメン二つです」

   美穂、治、箸を手に取り、合掌。

美穂「いただきます」

治「いただきます」

   美穂は麺を治はスープを一口飲む。二人顔を見合わせてにっこり笑う。
二人「うまい!」

駅の落とし物@ハンカチ

人物

大西一成(25)駅員

柴田亮(31)駅員・大西の先輩

小林俊三(88)無職

本田由紀子(23)会社員

田中朋子(72)無職・狭山の母

狭山明(41)会社員

 

 

○山野中駅・待合室(朝)

   柴田亮(31)が待合室で掃除をしている。

   真ん中に置いてある古びた石油ストーブにぼんやりとあたっている

   小林俊三(88)その横で大西一成(25)が落とし物箱をチェックしている。

   落とし物箱には古びた文庫本や折りたたみ傘などが入っている。

大西「(つぶやく)落とし物多いなあ」

   小林が落とし物箱を覗きこみ、文庫本を手に取る。タイトルは蟹工船

小林「あ、これわしの」

柴田「(掃除を続けながら)小林さんのじゃないでしょ」

小林「なんでわかるんだ?」

柴田「んーなんとなく」

   小林気を取り直して

小林「じゃあ、落とし主が見つからなかったらわしにちょうだい」

大西「困りますよ小林さん」

小林「作者が小林なんだよ?」

大西「それでもだめです」

小林「ちぇ」

   小林本を戻してストーブの前に戻る。

柴田「しかし落とし物箱、最初はいいアイデアだと思ったけど誰も見ないな」

大西「小学校の時も誰も引き取り手がいなくて結局ゴミが入ってたりしてましたよね。

 みんな落とし物に興味がないのかな?」

   と、本田由紀子(23)が待合室に入ってくる。

   由紀子、落とし物箱の中をチェックする。

   大西と目が合うが足早に改札を通って行ってしまう。

柴田「あの人は落とし物に興味あるみたいだな」

大西「そ、そうみたいですね」

小林「一瞬わしを見た。どうやらわしに興味があるようだな」

柴田「それはないだろ」

明子の声「あの…すみません」

   一同声の方へ振り向くと着物を着た田中明子(72)が

   ハンカチを持ってやって来る。

明子「すみません、落とし物を拾ったんですけど…」

   大西ハンカチを受け取る。

大西「ありがとうございます。お預かりしますね」

明子「はい、では失礼します」

   明子ゆっくりと改札を通っていく。

柴田「落とし物増えたな」

小林「あの人も一瞬わしを見たぞ」

柴田「それはもういいから。その落とし物どんなの?」

柴田「ハンカチですね。柄はえーっと…」

   大西、ハンカチを広げてみる。

   壁画の様な雰囲気のマンモスとそれを狩る人間達のどう考えてもおかしな

   デザインのハンカチ。

柴田「マンモスか」

大西「そうですね」

小林「マンモスを狩る人もおるな」

大西「そうですね」

柴田「なんか…変わったハンカチだな」

大西「と、とりあえずこのハンカチも落とし物箱に入れておきましょう。

 持ち主が現れるといいですね」

   大西、ハンカチを落とし物箱に入れる。

 

○同・待合室(夜)

   落とし物箱に張り紙をしている大西。

   そこへ由紀子が改札から出てきて、大西の元にやって来る。

大西「はい、あの…何か?」

由紀子「落とし物箱…」

大西「あ、何か落とされました?」

由紀子「落としたかどうかはわからないんですけど、

 もしかしたら何か落としたかもしれないので…」

大西「あ、それでいつも落とし物箱を確認しているんですか?」

由紀子「はい、変ですか?」

大西「いえ、そんなことはないと思います。

 あ、そうだ。このハンカチ今朝届けられたんです。落とされてませんか?」

由紀子「ハンカチ…ちょっと見てもいいですか?」

大西「はい、どうぞ」

   由紀子がマンモスのハンカチを広げる。

   壁画のようなマンモスに圧倒される由紀子。

由紀子「なんというか…不思議なハンカチですね」

大西「そうですね。ちょっと不思議です」

由紀子「(少し笑って)この持ち主どんな方なんでしょうね」

大西「僕も気になります。というかこの落とし物箱に入ってる落とし物の

 持ち主全員がどんな方なのか気になるんです」

由紀子「(目を輝かせて)私もそう思います。

 だから小学校の時はずっと落とし物係だったんです」

大西「あ、僕もです。だからこの駅にも作ってみたんですよ。

 あんまり成果はないですけどね」

由紀子「あの…私でよければお手伝いします。何でも言って下さい!」

大西「え?いえ、あの…」

由紀子「私、本田って言います。明日またお話しましょう。ではまた!」

大西「(思わず)あ、はい!」

   由紀子、足早に出て行く。

大西「お話ししましょう…?」

 

○同・待合室(朝)

   小林がストーブにあたっている。

   隅にある椅子には狭山明(41)が座って本を読んでいる。

   大西が改札口で待機している。柴田が改札口をぞうきんで拭いている。

柴田「へぇ、そんな事がねえ」

大西「どう思います?」

小林「(大声で)そりゃあ大西君の事が好きに決まってる!」

   びっくりして顔をあげる狭山。

大西「ちょ、なんでそうなるんですか!しかもそんな大声で…」

柴田「つか、なんで聞こえるんだよ!」

小林「わしは福耳なんじゃ!」

柴田「…今関係ないだろそれ…」

   小林が落とし物箱からマンモスのハンカチを取り出して広げる。

小林「このワイルドなハンカチが大西君の恋のキューピットになるとは…」

   と、狭山が突然立ち上がる。

狭山「そのハンカチの持ち主は誰ですか?」

大西「…え?」

狭山「私の母の物によく似ています」

柴田「あ、そうでしたか。良かったです。持ち主が現れて…」

狭山「いえ、ですからその持ち主は誰なんですか?」

大西「えっと、どういう事なんでしょう?」

狭山「母とは両親が離婚して以来ずっと会ってないんです。

 今探しているんですが、手がかりがほとんどなくて…」

大西「そうなんですか…でもこのハンカチは落とし物で持ち主がわからないんですよ」

狭山「では落とした場所や拾われた方のお名前をお教え頂けませんか?」

大西「ええっと…(小声で)柴田さんどうしよう。聞くの忘れました」

柴田「(小声で)ええ?やばいだろ」

小林「(狭山に)聞くの忘れたって」

柴田「出たよ、福耳…」

狭山「そう…ですか…」

   小林が入り口を見る。明子が立っている。

小林「あれ、あの人だよ。拾った人!着物の!」

   全員入り口を見る。

明子「(ハンカチを取り出しながら)す、すみません、

 私、自分のハンカチと落とし物を間違えて届けてしまってて…」

柴田「え、じゃあこのマンモスのハンカチの持ち主は…?」

狭山「母さん!」

明子「…明?まあ!こんなに立派になって…」

   狭山、明子の手を握る。

狭山「このハンカチずっと使っててくれたんだね」

明子「使うのがちょっと恥ずかしかったけどね」

狭山「子どもの頃はかっこいいと思ったんだ」

   狭山、明子抱き合う。大西、柴田は呆然としながら見ている。

小林「(大西に)まあ、持ち主が見つかって良かったな。

  しかもあのハンカチのおかげで君に彼女も出来たし」

大西「いや、だからなんで…」

   大西ふと入り口を見る。今度は由紀子が立っている。

由紀子「…彼女?」

大西「あ、あの、いや、小林さんが…」

   大西、由紀子の元へ走り弁解する。小林と柴田がにやにやしながら見ている。

   明子が柴田にハンカチを渡す。

明子「あ、駅員さんごめんなさい。こっちが拾ったハンカチです」

柴田「あ、ありがとうございます。一応お名前と連絡先を教えていただけますか?」

小林「(柴田からハンカチを取り上げて)どれ、本当の落とし物はどんな

 ハンカチなのかな?」
   小林がハンカチを広げる。

   柄はゾウがダンスをしているやはり不思議なハンカチ。

柴田「今度はゾウか…」