引っ越しそば@出会い
人物
大川静香(31)専業主婦
山田和夫(72)農夫
○山田和夫の家の玄関前
大川静香(31)が呼び鈴を鳴らす。
手にはスーパーで買った大量のそばの袋。しばらくしても誰も出ない。
静香「こんにちは。すみません、どなたかいらっしゃいませんかー」
山田和夫(72)が出てくる。
山田「はい、どなたですか?」
静香「あ、よかった。あの、昨日こちらに引っ越してきた大川と申します。
はじめましてよろしくお願いします」
山田、静香をじろじろ見る。
山田「ああ、隣に引っ越してきた都会の方?」
静香「はい、いろいろご面倒をおかけしますが、よろしくお願いします。
あ、これ引っ越しそばです。良かったら召し上がってください」
山田「ああ、これはスーパーに売ってるやつだね」
静香「はい、時間がなくて…」
山田「…大川さん、でしたか、ここの名産物をご存じですか?」
静香「名産物?いえ、特には…」
山田「じゃあ教えておきましょう。そばです。ここではそばを育てているんです。
そんなことも調べないでよくまあ、こんな田舎に引っ越してきましたね」
静香「すみません、私全然知らなくて…あ、でもきっと主人なら知ってます。
こちらに来たのも主人の考えです。田舎暮らしにあこがれてたらしくて…」
山田「あんたの考えはどうなの?ついて来たものの、
本当は都会に帰りたいんじゃないの?」
静香「え?いえ、そんな…」
山田「顔に書いてあるよ。こんなところに来たくなかったってね。
帰ればいい、都会に帰っちまいな」
山田、そばの入った袋を静香に返して玄関の戸を閉める。
静香は返されたそばの袋を玄関前に置き、頬を伝う涙を拭きながら帰って行く。