読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

もっさりシナリオブログ

もけの脚本・シナリオ等創作置き場(無断転載不可)

号外の一歩@卒業

人物

小森武弘(24)無職

小森康夫(55)会社員・武弘の父

小森弘子(52)主婦・武弘の母

小森美紀(21)大学生・武弘の妹

斉藤夏帆(23)会社員

 

 

○小森家・居間(夜)

   新聞を読みながら夕食を食べている小森康夫(55)。

   それを気にしつつ、ご飯を食べる小森弘子(52)。

   もう一人分の夕食にはラップがかけてある。

   それを小森美紀(21)がじっと見つめる。

美紀「ねえお父さん」

康夫「んー?」

美紀「お兄ちゃんいつ部屋から出てるの?」

   弘子が眉をひそめる。

康夫「んーまあ、そのうち出てくるんじゃないか?」

美紀「そんなこと言ってずーっと出てこないじゃん。

 もう一年くらい?お風呂とかどうしてるんだろ」

弘子「お風呂やトイレは私たちの知らないうちにすませてるみたいだけど…

 私が声をかけても無視するし…(康夫に)あなたからなんとか言ってくれないと」

康夫「うーん、まあそのうち…」

弘子「そのうちっていつなのかしら。あ、そろそろあの子にご飯持っていくわね」

美紀「そんなの運ばなくていいよお母さん。ほっとけばいいじゃん」

弘子「そうねえ…」

康夫「いいから、持っていってあげなさい」

   美紀が立ち上がる

美紀「お父さんがそんなだからお兄ちゃんますます引きこもるんだよ」

   美紀、立ち去る。

 

○同・武弘の部屋

   小森武弘(24)がパソコンの前に座っている。

   テレビがついておりニュース番組がかかっている。

   ネットのニュースを読み上げる武弘。

武弘「ゆうやけ保険で過労死。訴訟問題へ、か。大変だな」

   扉をノックする音。

弘子の声「武弘、夕食よ。開けて」

   武弘、無言でマウスを動かしている。

弘子の声「…夕食ここに置いておくからね」

   弘子が去って行く気配。武弘ため息をつく。

武弘「…さてと、夜はまだまだこれからだな」

   武弘、さらにマウスを動かす。

 

○同・武弘の部屋(夕方)

   カーテンが閉まった真っ暗の部屋。ベッドで寝息を立てる武弘。

   外から声が聞こえてくる。

女の声「号外でーす。号外でーす」

   武弘、目を覚ます。

武弘「号外?やっべ、なんかあったのかな?」

   早速テレビをつけてチャンネルを変えるが、

   どれもバラエティ風のニュースで大きな事件はない。

   武弘、パソコンをつけてインターネットのニュースサイトを確認するが

   やはり大きな事件はない。

女の声「号外です、号外でーす」

   武弘、首をひねりつつマウスをクリックする。

 

○同・武弘の部屋の前(夜)

   夕食をおぼんで運んでいる弘子。武弘の部屋の扉をノックする。

弘子「武弘、夕食持ってきたわよ。開けて」

   テレビの音が漏れているが武弘の声は聞こえない。

弘子「武弘、いつまでも部屋にいないでたまには外に出たらどうなの?」

   テレビの音のボリュームがあがる。

弘子「(やや大声で)仕事も探さないと…あなたもう24歳でしょ。

 お願いだからちゃんとしてよ」

   壁をドンと蹴る音がする。弘子、畏縮してしまう。

弘子「と、とにかく、明日からは居間でご飯食べてね。今日はここに置いておくから」

   弘子逃げるように立ち去る。

 

○同・武弘の部屋(夕方)

   武弘、目を覚ます。外から声がする。

女の声「号外でーす、号外です」

武弘「号外?なんか事件あったのかな?」

   武弘、テレビをつけて見るがバラエティ風のニュースばかり。

   パソコンをつけてニュースサイトをチェックするが、

   特に大きなニュースはない。

武弘「そういや、昨日も号外配ってたな。なんでだろ」

   武弘、首をひねりながらマウスを動かす。

 

○小森家・武弘の部屋の前(夜)

   ラップにかかった夕食が置いてある。

   武弘、扉を開けて夕食を部屋に持って行こうとする。

   通りかかった康夫が武弘に声をかける。

康夫「あ、武弘。ちょっといいか?」

   武弘、動けなくなる。

康夫「武弘覚えてるか?」

   武弘、無言。

康夫「ずっと昔にさ、休みの日に動物園に行こうってお前に約束したけど、
 父さん急に会社に出勤しなくちゃならなくなって

 結局約束やぶったって事があったろ」

   武弘、首をひねる。

康夫「いや、忘れてるならいいんだが…父さんあの時の事まだ後悔しててさ」

武弘「(ぼそぼそと)だから何」

康夫「働くのが偉いとかじゃないけどさ、俺はお前に後悔するような人生を

 歩んで欲しくないと思うんだ」

武弘「…だから何」

康夫「いや、それだけだ。ひきとめて悪かったよ」

   康夫、部屋に戻る。武弘もおぼんを持って部屋に入っていく。

 

○同・武弘の部屋(夕方)

   ベッドに横になっている武弘。

   ときどき寝返りをうつが寝られないでいる。外から声がする。

女の声「号外でーす。号外でーす」

   武弘無言で起き上がり、テレビをつける。相変わらず他愛のないニュース。

武弘「またか、なんの号外配ってるんだあの女…」

   武弘、パソコンのスイッチを入れようとするがやめる。

   代わりにカーテンを開け、外を見る。

   部屋の窓から駅のロータリーが見える。

   斉藤夏帆(23)が一人で号外を配っているのが遠目で確認できる。

武弘「あの人が配ってるのか…」

夏帆「号外でーす。号外です。お願いします」

   スーツの男が号外を受け取る。

夏帆「ありがとうございます」

   武弘その姿をじっと見つめる。

武弘「なんの号外なんだろう・・・な」

   武弘、深呼吸する。深いため息をついてからクローゼットを開け、

   奥の方からズボンと黒いシャツを取り出し、それを着る。

   さらにクローゼットから黒い野球帽を出し、しっかりとかぶる。

 

○駅のロータリー
   夏帆が号外を配っている。少し離れたところで武弘が夏帆の様子を見ている。

   老人が駅に向かって歩いているのを見つける武弘。

   ぎこちなくそれについて行きながら、夏帆の近くに行く。

夏帆「(笑顔で)号外です。お願いしまーす」

   武弘に号外が手渡される。武弘急いで号外の一面を確認する。

   大きな字で『改革!お日様新聞!』と書いてある。

武弘「(思わず大きな声で)お、お日様新聞?」

   夏帆が武弘の声に気がついてクスッと笑う。

武弘「いや、あの、えっと…スミマセン」

夏帆「いえ、いいんです。大きなニュースかと思われたんじゃないですか?」

武弘「…はい」

夏帆「私この近くにあるお日様新聞社ってところに勤めているんです」

   武弘、目を合わさず無言でうなずく。

夏帆「今、お日様新聞は以前より字を大きくし、

 全体的に読みやすい新聞に改革したんですよ」

武弘「え?じゃあこの号外っていうのは…」

夏帆「お日様新聞、リニューアル記念の号外です!

 三日間無料でお配りしております!」

   武弘力が抜け、思わずその場に座り込む。

夏帆「(顔をのぞき込んで)大丈夫ですか?」

武弘「(びっくりして)いやあの…大丈夫です」

夏帆「良かった。じゃあ私はこれで失礼しますね。

 今後ともお日様新聞をよろしくお願いします!」

   夏帆、再び号外を配り始める。武弘ゆっくり立ち上がる。

武弘「リニューアル記念…だったのか…」

   武弘もらった号外を握りしめ、忙しそうに歩くスーツの男や

   しっかりと化粧した派手な女、
   大きなスポーツバッグを持った男子高校生などが忙しそうに歩いているのを

   ぐるりと見渡す。

   一つ伸びをして、夕焼けで赤く染まっている空を見上げる。

武弘「そうだ、久しぶりにコンビニでも行くか」

   武弘、駅の近くにあるコンビニを目指し、歩き始める。

   その足取りはどことなく軽やか。