勇気の帽子@帽子
人物
一ノ瀬志帆(17)高校生
清水香(17)高校生
吉田雄輝(18)高校生
一ノ瀬舞(14)中学生・志帆の妹
中林彩(17)高校生
大長卓(17)高校生
少年
老婆
○公立道城高校・グラウンド(夕方)
学生達がサッカーをしている。
○同・2階 2年B組教室(夕方)
窓からグラウンドを見ている一ノ瀬志帆(17)風でカーテンが揺れている。
そこへ帰り支度を済ませた清水香(17)が志帆の隣にやって来る。
香「志帆、また見てるの?えーっと…山田先 輩?」
志帆「吉田先輩」
香「まあ、どっちでもいいや。もう帰ろうよ。 なんか…やばいから…」
志帆「やばいって…?」
志帆、教室の中を見渡す。クラスメイトが何人か残っている。
派手な格好をした中林彩(17)が背の高い大長卓(17)に文句を言っている。
彩「つーかさ、あんたマジでかすぎ。うっとうしいわ」
大長、無言で机から教科書を取り出し、鞄に入れようとする。
彩「無視すんなや」
彩、大長の鞄を蹴る。教科書が床に散らばる。それを無言で拾う大長。
他のクラスメイトは見て見ぬふり。志帆は拳を握りしめるが何も言えない。
○バス車内(夕方)
混んでいる車内。椅子に座ってスマホを見ている志帆。
停留所から重そうな荷物を持った老婆が乗って来る。老婆が志帆の前に立つ。
志帆「あ…」
志帆、席を譲ろうと立とうとするがためらう。
別の席に座っている女性が老婆に席を譲る。志帆、拳を握りしめる。
○一ノ瀬家・志帆の部屋(夜)
お風呂上がりの一ノ瀬舞(14)がだらだらとテレビを観ている。
志帆は机に向かって宿題をやっている。
舞「あ、そうだお姉ちゃん、今日仕入れた噂、聞いてくれる?」
志帆「勉強中」
舞「(無視して)あのね、最近この辺りで勇気の帽子っていうのが
出回ってるらしいよ!」
志帆「(興味なさそうに)ふうん」
舞「見た目は黄色で羽の刺繍がしてある超ださい帽子なんだけどね、
今まで勇気がなくて出来なかった事もその帽子をかぶると
なんでも出来ちゃうんだって!すごいよね」
志帆「(興味なさそうに)すごいね」
舞「もう!聞いてないでしょ」
志帆「だから勉強してるんだって!自分の部屋に戻ってよ」
舞「ちぇー」
舞、志帆の部屋から出る。
○道城公園(朝)
ベンチに座ってジャムパンを食べている志帆。
ふと見ると少年が木の枝にひっかかっている帽子を取ろうとして
ジャンプしている。
志帆「あの高さなら私でも取れそう」
志帆、パンを置いて木に近づく。
志帆「私が取ってあげるよ」
志帆、思い切りジャンプをする。帽子が地面に落ちる。
志帆「やった!良かったね」
志帆、振り返ると少年はいなくなっている。
帽子を拾い上げる志帆。黄色で羽の刺繍がしてある。
志帆「…勇気の帽子?まさかね」
志帆、帽子をかぶってベンチに戻る。
○道城高校・2年B組教室(朝)
志帆、帽子をかぶったまま教室に入る。彩が大長の机を蹴っ飛ばしている。
彩「うざいんだよ。学校くんなよ」
大長ぼーっと立ったままうつむく。
他のクラスメイトは見て見ぬふりをしている。
志帆、すぐに大長の元へかけより机を元に戻す。
志帆「何してるの!やめなよ!」
彩「は?別にあんたに関係ないじゃん」
志帆「こういうことされると見ててイライラするからやめてくんない?」
彩、舌打ちして教室から出て行く。クラスメイト思わず拍手。
よくやった、志帆かっこいいなどと口々に言う。
志帆「(つぶやく)考える前に勇気が出てた」
○同・購買部前
香と帽子をかぶった志帆がパンを選んでいる。
香「志帆、あんたずっとその帽子かぶってるね。正直言うとその帽子ださいよ?」
志帆「ださくてもいいの。これかぶってると なんか勇気が湧いてくるんだよね」
香「ふーんって、あ、私先生にプリント出してない。
志帆代わりにパン買っておいて!」
香、急いで教室に戻って行く。
志帆「何のパンにすればいいのか聞きそびれた…ジャムパンでいいかな」
志帆ふと隣を見るといつの間にか吉田雄輝(18)が立っている。
志帆「こんにちは」
吉田「あ、こんにちは」
志帆「あの、吉田先輩…ですよね。いつもグラウンドでサッカーしてる…」
吉田「え、よく知ってるね。君は二年生?」
志帆「はい、一ノ瀬志帆っていうんです」
吉田「一ノ瀬さんはよく購買部でパン買うの?」
志帆「はい、うちは母がお弁当作る暇がないのでいつもパンなんです」
吉田「そうなんだ。俺はいつも母親が弁当作るんだよね。どのパンが美味しいの?」
志帆「ジャムパンです!」
吉田「じゃあジャムパン買ってみるよ。あ、すみませんこれ下さい
…じゃあね、一ノ瀬さん」
吉田、ジャムパンを持って教室へと戻っていく。
志帆、嬉しくてガッツポーズする。
○バス車内(夕方)
混んでいる車内。また椅子に座ってスマホをいじっている
帽子をかぶった志帆。
そこへ前回と同じ停留所から大きな荷物を持った老婆が乗ってきて
志帆の前に立つ。志帆すぐに立ち上がる。
志帆「あの、良かったら座って下さい」
老婆、びっくりして喜ぶ。
老婆「いいんですか?ありがとう」
老婆椅子に座る。志帆、嬉しくてガッツポーズ。
志帆「(つぶやく)この帽子…本物だ」
○道城高校・3年生の靴箱前(朝)
帽子をかぶった志帆が書いた手紙を見返している。
手紙には『吉田先輩へ伝えたいことがあります。
今日の16時に道城公園で待ってます。2年B組一ノ瀬志帆より』と書いてある。
志帆、吉田の靴箱に手紙を入れ、教室に戻る。
○同・2年B組教室
誰もいない教室。彩がきょろきょろしながら入ってくる。
彩、志帆の席に置いてある勇気の帽子を見つけ、手に取る。
彩「だっせえ帽子」
彩、帽子を持って教室を後にする。
○同・2年B組教室(夕方)
時計の針が15時半をさしている。志帆、鞄の中をひっくり返して
帽子を探している。香が心配そうに近づいてくる。
香「見つかった?」
志帆「ううん、ない」
香「もうちょっとで時間でしょ?あの帽子がないと困るの?」
志帆「あの帽子がないと私…」
いつの間にか彩が後ろに立っている。
彩「あのだっせえ帽子、そんなに大事だったんだー」
志帆「彩!あの帽子がどこにあるか知ってるの?」
彩「あっちに置いておいたよ」
彩がゴミ箱を指さす。ゴミ箱に駆け寄る志帆。
帽子はずたずたに引き裂かれている。
志帆「彩!なんて事するの!」
彩「別にいいじゃん。そんなだっせえ帽子の一つや二つ。
また親に買ってもらえばー?」
彩、鞄を持って教室から出て行く。
志帆、悔しくて涙がぽろぽろこぼれ落ちる。
志帆「この帽子が…この帽子がないと私…」
香「志帆…大丈夫だよ」
志帆「…大丈夫じゃないよ。この帽子のおかげで彩に言いたいこと言えたし、
吉田先輩 とも話せたのに…この帽子がないと私…何も出来ないよ…」
香「…志帆、もう4時になるよ。先輩待ってるよ」
志帆「…でも私…」
香「とりあえず行くだけ行きなよ。先輩待たせるのも悪いじゃん。
うまく話せなくても、告白出来なくてもいいんじゃない?それが志帆なんだからさ」
志帆涙を拭く。
志帆「…先輩…待っててくれてるかも…私行ってみる。勇気が出なくても…
とにかく行ってくるよ」
志帆、鞄を持って公園へと走る。