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もっさりシナリオブログ

もけの脚本・シナリオ等創作置き場(無断転載不可)

私の人生@写真

人物

佐々木忍(28)無職

林清(58)玉ねぎ農家・忍の父

佐々木幸恵(56)川島銀行社員・忍の母

山田昌裕(41)今石商事・面接官

 

 

 

○アパート・ポスト前

   佐々木忍(28)がポストを開けて一通の手紙を取り出す。

   思わず手で開封する忍。

   中には紙が一枚入っており、不採用の通知である。忍ため息をつく。

忍「またか」

 

○忍の部屋(夜)

   忍がむくんだ足をもみながら、電話している。

忍「だから!派遣切りにあって仕事がないの!

 面接受けてるけどいつも不採用。

 とりあえず出来る事はなんでもやるからお母さんのところで求人ない?」

 

○川島銀行・社内(夜)

   佐々木幸恵(56)が書類をチェックしながら携帯電話で話す。

幸恵「今お母さん仕事中なんだけど」

忍の声「ごめん、でも本当困ってて」

幸恵「じゃあ、あなたのお父さんの田舎…

 出雲にでも遊びに行って少し気分でも変えてきたら?」

忍の声「ええ?そうじゃなくて」

幸恵「切るよ。じゃあね」

 

○忍の部屋(夜)

   電話を切られて呆然とする忍。

忍「出雲なんて行ってる場合じゃないじゃん」

 

○今石商事・社内

   狭いオフィスの応接室の一角。面接をしている忍と面接官の山田昌裕(41)。

山田「では、あなたの長所を教えて下さい」

忍「はい、与えられた仕事は最後まできちんとやり通します」

山田「…あなたは仕事を与えられてからやるタイプなのですか?」

忍「え?」

山田「うちは小さい会社だからそういう方は

 ちょっと続けづらいかもしれないですね」

忍「あ、いえ、でも…何でもやりますので!」

山田「(苦笑して)なんでも、ねえ…」

忍「いえ、頑張ります」

山田「では面接はこれで終わりです。結果は後日郵送致しますよ」

忍「ありがとうございました。よろしくお願い致します」

 

○忍の部屋(朝)

   忍、起き上がりふらふらと玄関を開ける。

 

○アパートポスト前(朝)

   ポストを覗く忍。今石商事からの手紙が来ている。

   その場で手で開封。中には不採用の通知。

忍「やっぱりだめか」
   忍、部屋に戻る。

 

○忍の部屋(朝)

   トランクに荷物を詰める。電話をかける忍。

忍「もしもし、お父さん?久しぶり…」

 

出雲空港・外
   トランクを引きずりながらきょろきょろしている忍。

   軽く手を振っている作業服に帽子の林清(58)を見つけて足早に歩き出す。

忍「お父さん…突然押しかけてごめんなさい」

林「ああ、いや、大丈夫だ」

忍「ちょっと今無職になっちゃっててこれからどうするかゆっくり考えたいなーって

 思って来たんだけど…」

林「まあ、ゆっくりすればいいよ」

   林、歩き出す。後に続く忍。

 

○軽トラック・車内

   景色を見ている忍。玉ねぎ畑が広がっている。

林「俺今、玉ねぎを作ってるんだ」

忍「へえ、農業やってるんだ」

林「まあな。お前もやるか?」

忍「でも私今東京に住んでるし」

林「俺もお前と母さんで東京にいた時サラリーマン生活だったからわかるけど」

   林、帽子をかぶり直す。

林「人に言われた事を頑張るより、自分で決めた事を頑張るのもいいと思うぞ」

忍「そ、それは東京でも出来るじゃん」

林「お前、何かを自分で決めて頑張った事あるか?」

   忍決まり悪そうに風景に目をやる。川が流れている。

林「…もうすぐ着くぞ」

   林の運転しているトラックがウィンカーを出して曲がる。

 

○林家の庭

   軽トラックから降りる忍。荷台に乗せていたトランクを持ち上げる。

   見ると林の家がある。こぢんまりとした民家という印象の家。

忍「…わぁ」

林「じいちゃんが亡くなってからここに一人で住んでるんだ」

   先に家に入る林。

忍「なんか農家っぽいな」

   忍も中に入る。

 

○林家・居間

   林が冷たい麦茶を二人分、そそいでいる。座布団に座ろうとする忍。

林「まず、仏壇に手を合わせてくれ。俺の両親、お前のじいちゃんとばあちゃんだ」

忍「そういや会った事ないなあ」

   忍、仏壇の前に座り手を合わせる。

林「そうだな。ばあちゃんは俺が6つの時に亡くなってるからな。

 じいちゃんは8年くらい前、だったかな」

   忍、仏壇に飾ってある二つの遺影を見る。

   祖母の写真を見ると忍とよく似ている。

忍「おばあちゃん、私に似てる」

林「似てるって、ああ、顔か」

忍「うん。おばあちゃんはどうして早くに亡くなったの?」

林「俺はあんまり覚えてないから親父から聞いた話なんだけどな」

   林いっきに麦茶を飲み干す。

林「昭和39年7月にこの島根県で集中豪雨があって、出雲は特にひどかったんだ。

 さっき川があっただろ」

   うなずく忍。

林「そこが氾濫して、ばあちゃんは死んだらしい。

 畑が心配で見に行ったってのが原因みたいだな」

   忍再び遺影を見つめる。

忍「そうなんだ」

林「29歳だった」

忍「私の一つ上だ」

林「俺としては仕事に一生懸命なのはいいが、

 畑より自分の命を心配して欲しかったな」

忍「…でもなんか、私と同じくらいの年齢で夫も子どももいて…

 私と似た顔なのに全然 違う人生を歩んでるって感じ」

林「そうだな。でも同じ人生を歩む人間なんていないんじゃないか?」

忍「確かに…だけど私仮に今、この年で死んだら何も残せないな」

林「…見てみるか?畑」

 

○玉ねぎ畑

   軽トラックが止まる。林と忍、中から出てくる。

忍「うわーこれ全部玉ねぎ?」

林「6月くらいに本格的に収穫するんだけど今も十分食べられる。

 小さいけど結構うまいぞ」

忍「食べてみたいな」

林「(指指して)その端のやつなら抜いていいぞ」

忍「うん」

   忍、玉ねぎを抜こうと引っ張るが、うまく抜けずに茎が折れる。

忍「…やっぱり何やってもだめだなあ私」

林「大丈夫だ。まあ最初はそんなもんだろ」

   林、茎の折れた玉ねぎを抜く。

林「握るところが長すぎたんだよ。もう一回やってみろ」

忍「ねえ、自分で選んでいいかな?」

林「ああ、気に入ったやつ抜いてみろ」

   忍、玉ねぎを念入りに探して抜く。今度は根までうまく抜ける。

忍「採れた。すごい小さいけどちゃんと玉ねぎしてる」

林「そうだな」

忍「ねえ、もっと抜いていい?」

林「あんまり大きく育ってるやつはだめだぞ」

忍「わかった。ねえ、お父さん」

   忍、玉ねぎを抜きながら話を続ける。

忍「私も農業やってみようかな」

林「でもお前さっき…」

忍「今まで将来とか何も考えてなかった。

 お母さんみたいな人生歩むのかなって勝手に思ってた。

 でもお母さんみたいにはなれなかった」

林「さっきも言ったが…」

忍「うん。私はお母さんともおばあちゃんとも違う…」

   忍、収穫した玉ねぎを見つめる。

忍「私は私の人生を選ばないとだめだよね」

林「そうか、まあ自分でゆっくり決めなさい」

忍「…うん。あ、ねえ、玉ねぎって採れたて食べれるの?」

林「泥ついてるから洗った方がいいぞ」

忍「あ、そっか。じゃあ水で洗おう」

   忍と林、玉ねぎを持って軽トラックへと向かう。

   風が少し吹いている。