妹の鏡@鏡
人物
春山光一(16)高校生
秋月桐花(16)高校生
五十嵐一真(16)高校生
横井空人(16)高校生
秋月清美(45)主婦・桐花の母
○大沢高校・男子トイレ
春山光一(16)が鏡の前に立っている。
鏡に映る自分の姿を見つつ、髪の毛など身だしなみを整えて頷く春山。
春山「よし!」
春山、トイレから出て行く。
○同・1年4組教室
五十嵐一真(16)と横井空人(16)が教室の窓側の隅で
グラビア雑誌を見ている。二人の間に春山が割り込む。
春山「おい、そんな雑誌学校に持ってくるなよ」
五十嵐「堅いこというなよ」
横井「(写真を指指し)この子可愛いな。あ、でもなんつーか、うちのクラスの秋月に
似てね?」
春山「秋月?ああ、まだ話したことないな」
横井「秋月って見た目可愛いけど、なんつーか暗いんだよねえ」
五十嵐「しかもなぜかいつも手鏡持って見てるし」
春山「自分の顔が好きなんじゃないの?」
横井「でもなんつーか不気味だよな」
五十嵐「だよなあ。可愛くて成績もいいのに残念だよな」
春山「…俺、ちょっと話しかけてみる」
横井「うわー春山、また口説くのか!」
春山「ちげーよ。声かけるだけ!」
秋月桐花(16)が廊下側の隅の席で手鏡を見ている。
春山がごく自然に近づく。
春山「秋月さん!」
桐花びっくりして手鏡をしまう。
春山「あ、突然話しかけてごめんね。秋月さんいつも一人でいるからちょっと
気になって…良かったら俺と友達になろうよ」
桐花ゆっくり頷く。
春山「(にっこり笑って)よろしくね!」
窓側の方で横井と五十嵐が春山の様子を見ている。
横井「春山って、なんつーか、よくやるよな」
五十嵐「秋月さん困ってるけど大丈夫なのか」
横井「さあ?」
○同・教室の廊下(朝)
朝の挨拶があちこちから聞こえてくる。
春山あくびをしながら廊下を歩いている。
○同・1年4組教室(朝)
五十嵐「春山おはよ」
春山「おはよう五十嵐」
春山、桐花の席を見る。桐花はすでに登校しており、
相変わらず手鏡を見ている。
春山「(大声で)秋月さんおはよう」
一瞬、しーんとなる教室。桐花はびっくりして手鏡をしまう。
春山、桐花の側に行く。
春山「秋月さん、宿題やった?俺ちょっと自信なくて…今日先生に当てられそうだし」
桐花ゆっくりノートを出す。そのやり取りを見ている五十嵐。
五十嵐「…本当よくやるよなあ」
○同・教室前の廊下(夕方)
春山と横井と五十嵐が三人で話している。
横井「今日カラオケ行くか!」
五十嵐「え、じゃあ他に誘う?」
そこへ手鏡を持った桐花が教室から出てくる。
春山「あ、秋月さん。今からカラオケ行かない?」
桐花びっくりして手鏡をしまう。
桐花「あ、あの…早く帰らないと…ならないので…お、おと…か…が」
春山「そっか、じゃあ今度都合のいい時に」
桐花ゆっくり頷く。
春山「じゃあまた明日ね」
桐花頷き、小走りで去る。
横井「春山すげー!俺、秋月さんがしゃべってるの初めて見たわ」
春山「うん、俺も初めて見た」
五十嵐・横井「ええ?」
○同・1年4組教室(朝)
桐花の席の近くで春山と横井が話している。
そこへ五十嵐が鞄を持ってやってくる。
五十嵐「おはよっす」
春山「おはよう五十嵐。今日はいつもより遅いじゃん」
五十嵐「なんか電車が遅れててさ」
そこへ桐花がやってくる。
春山「あ、秋月さん、おはよう」
桐花「あの、おはようございます」
春山「(少し笑って)なんで敬語?」
桐花「あ、じゃあ、敬語やめます」
横井と五十嵐顔を合わせてにっこり笑う。
横井「秋月さんそれじゃ敬語のままだよ」
五十嵐「クラスメイトなんだし、リラックスしようぜ」
桐花「あ、えっとはい!じゃなくてうん」
四人顔を見合わせ、笑う。
○同・教室前の廊下(夕方)
春山がドアの近くで携帯電話を見ている。
桐花が手鏡を持ちながら帰ろうとドアを開ける。
春山「あ、秋月さん、今帰るとこ?」
桐花「あ、うん」
春山「良かったらここの近くの公園で少し話しでもしない?」
桐花「あ、でも乙花が…」
春山「乙花?」
桐花、手鏡をしまう。
桐花「ううん。なんでもないよ」
○大沢公園(夕方)
春山と桐花がブランコに乗って楽しそうに話をしている。
春山「あ、もうこんな時間だけど大丈夫?」
桐花「うん、平気」
春山「良かった。いやー秋月さんと話してるとなんか、楽しいよ」
桐花「私も春山君と話せて楽しい。クラス人と長く話すの久しぶりだから」
春山「じゃあ秋月さんは家族とかとよく話すの?」
桐花「…こんなこと話すの初めてだからびっくりするかもしれないけど…」
春山「ん?」
桐花「私ね、双子の妹がいるの。名前は乙花」
春山「へえ、そうなんだ」
桐花「でも乙花は交通事故で二年前に亡くなったの」
春山「え」
桐花「私すごく悲しかった。けどこの手鏡に乙花が幽霊になって会いに来てくれるよう
になったの」
春山「え、ゆ、幽霊?」
桐花「うん、乙花は私より明るくて勉強も出来たから私の事励ましてくれるし、
ときどき勉強も教えてくれるんだ」
春山「(動揺しつつ)そ、それはすごいな。
鏡の中に妹がいるなんてちょっと怖いけど…まあ、うん、すごいと思うよ」
桐花「(嬉しそうに)そう、思う?」
春山「うん、勉強教えてくれるとかちょっとうらやましいな。
でも…乙花ちゃんはずーっとその手鏡の中にいて本当に幸せかな?」
桐花「え」
春山「俺は死んだらどうなるとかあんまり考えたことなかったけど、生まれ変わりとか
あるかな、って思ってるんだ。だから乙花ちゃんも鏡の中にいるより生まれ変わって
また生きたいんじゃないかな?」
桐花「そう、かな?」
春山「…今から秋月さんちに行ってもいい?俺も祈るから秋月さんも祈ろうよ。
乙花ちゃんの成仏を、さ」
桐花「…わかった。ついてきて」
○桐花の家(夕方)
桐花と春山が玄関に入ってくる。出迎える秋月清美(45)。
桐花「ただいま」
春山「お邪魔します」
清美「桐花のお友達?こんにちは。ささ、上がってちょうだい」
桐花「私部屋で着替えて来るね」
桐花二階に上がる。
春山「あの僕、乙花さんの仏壇に手を合わせたいんです。いいですか?」
清美「乙花?」
春山「すみません、無理言って」
清美「いえ、あの…乙花ってどなた?」
春山「え?桐花さんの双子の妹だって…」
清美「うちの桐花は一人っ子よ」
春山一瞬驚いてから急いで靴を脱ぐ。
春山「…ちょっと失礼します」
春山急いで階段を上がり、桐花の部屋に向かう。
○同・桐花の部屋(夕方)
ドアを開けると部屋で手鏡を見ながら何かつぶやいている桐花。
春山「桐花!乙花はもともといなかったんだ。
君には妹なんて最初から存在してないんだ!」
春山、手鏡を桐花から無理矢理奪い取る。
桐花「返して!」
手鏡を覗き、驚く春山。手鏡には春山の姿は映らず、
桐花によく似た女の子が映っている。
春山「こ、この手鏡…なんで…?」
桐花がゆっくりと立ち上がる。
桐花「私の妹を…返して」
絶叫する春山。春山の瞳に桐花の姿が映っている。