もっさりシナリオブログ

もけの脚本・シナリオ等創作置き場(無断転載不可)

号外の一歩@卒業

人物

小森武弘(24)無職

小森康夫(55)会社員・武弘の父

小森弘子(52)主婦・武弘の母

小森美紀(21)大学生・武弘の妹

斉藤夏帆(23)会社員

 

 

○小森家・居間(夜)

   新聞を読みながら夕食を食べている小森康夫(55)。

   それを気にしつつ、ご飯を食べる小森弘子(52)。

   もう一人分の夕食にはラップがかけてある。

   それを小森美紀(21)がじっと見つめる。

美紀「ねえお父さん」

康夫「んー?」

美紀「お兄ちゃんいつ部屋から出てるの?」

   弘子が眉をひそめる。

康夫「んーまあ、そのうち出てくるんじゃないか?」

美紀「そんなこと言ってずーっと出てこないじゃん。

 もう一年くらい?お風呂とかどうしてるんだろ」

弘子「お風呂やトイレは私たちの知らないうちにすませてるみたいだけど…

 私が声をかけても無視するし…(康夫に)あなたからなんとか言ってくれないと」

康夫「うーん、まあそのうち…」

弘子「そのうちっていつなのかしら。あ、そろそろあの子にご飯持っていくわね」

美紀「そんなの運ばなくていいよお母さん。ほっとけばいいじゃん」

弘子「そうねえ…」

康夫「いいから、持っていってあげなさい」

   美紀が立ち上がる

美紀「お父さんがそんなだからお兄ちゃんますます引きこもるんだよ」

   美紀、立ち去る。

 

○同・武弘の部屋

   小森武弘(24)がパソコンの前に座っている。

   テレビがついておりニュース番組がかかっている。

   ネットのニュースを読み上げる武弘。

武弘「ゆうやけ保険で過労死。訴訟問題へ、か。大変だな」

   扉をノックする音。

弘子の声「武弘、夕食よ。開けて」

   武弘、無言でマウスを動かしている。

弘子の声「…夕食ここに置いておくからね」

   弘子が去って行く気配。武弘ため息をつく。

武弘「…さてと、夜はまだまだこれからだな」

   武弘、さらにマウスを動かす。

 

○同・武弘の部屋(夕方)

   カーテンが閉まった真っ暗の部屋。ベッドで寝息を立てる武弘。

   外から声が聞こえてくる。

女の声「号外でーす。号外でーす」

   武弘、目を覚ます。

武弘「号外?やっべ、なんかあったのかな?」

   早速テレビをつけてチャンネルを変えるが、

   どれもバラエティ風のニュースで大きな事件はない。

   武弘、パソコンをつけてインターネットのニュースサイトを確認するが

   やはり大きな事件はない。

女の声「号外です、号外でーす」

   武弘、首をひねりつつマウスをクリックする。

 

○同・武弘の部屋の前(夜)

   夕食をおぼんで運んでいる弘子。武弘の部屋の扉をノックする。

弘子「武弘、夕食持ってきたわよ。開けて」

   テレビの音が漏れているが武弘の声は聞こえない。

弘子「武弘、いつまでも部屋にいないでたまには外に出たらどうなの?」

   テレビの音のボリュームがあがる。

弘子「(やや大声で)仕事も探さないと…あなたもう24歳でしょ。

 お願いだからちゃんとしてよ」

   壁をドンと蹴る音がする。弘子、畏縮してしまう。

弘子「と、とにかく、明日からは居間でご飯食べてね。今日はここに置いておくから」

   弘子逃げるように立ち去る。

 

○同・武弘の部屋(夕方)

   武弘、目を覚ます。外から声がする。

女の声「号外でーす、号外です」

武弘「号外?なんか事件あったのかな?」

   武弘、テレビをつけて見るがバラエティ風のニュースばかり。

   パソコンをつけてニュースサイトをチェックするが、

   特に大きなニュースはない。

武弘「そういや、昨日も号外配ってたな。なんでだろ」

   武弘、首をひねりながらマウスを動かす。

 

○小森家・武弘の部屋の前(夜)

   ラップにかかった夕食が置いてある。

   武弘、扉を開けて夕食を部屋に持って行こうとする。

   通りかかった康夫が武弘に声をかける。

康夫「あ、武弘。ちょっといいか?」

   武弘、動けなくなる。

康夫「武弘覚えてるか?」

   武弘、無言。

康夫「ずっと昔にさ、休みの日に動物園に行こうってお前に約束したけど、
 父さん急に会社に出勤しなくちゃならなくなって

 結局約束やぶったって事があったろ」

   武弘、首をひねる。

康夫「いや、忘れてるならいいんだが…父さんあの時の事まだ後悔しててさ」

武弘「(ぼそぼそと)だから何」

康夫「働くのが偉いとかじゃないけどさ、俺はお前に後悔するような人生を

 歩んで欲しくないと思うんだ」

武弘「…だから何」

康夫「いや、それだけだ。ひきとめて悪かったよ」

   康夫、部屋に戻る。武弘もおぼんを持って部屋に入っていく。

 

○同・武弘の部屋(夕方)

   ベッドに横になっている武弘。

   ときどき寝返りをうつが寝られないでいる。外から声がする。

女の声「号外でーす。号外でーす」

   武弘無言で起き上がり、テレビをつける。相変わらず他愛のないニュース。

武弘「またか、なんの号外配ってるんだあの女…」

   武弘、パソコンのスイッチを入れようとするがやめる。

   代わりにカーテンを開け、外を見る。

   部屋の窓から駅のロータリーが見える。

   斉藤夏帆(23)が一人で号外を配っているのが遠目で確認できる。

武弘「あの人が配ってるのか…」

夏帆「号外でーす。号外です。お願いします」

   スーツの男が号外を受け取る。

夏帆「ありがとうございます」

   武弘その姿をじっと見つめる。

武弘「なんの号外なんだろう・・・な」

   武弘、深呼吸する。深いため息をついてからクローゼットを開け、

   奥の方からズボンと黒いシャツを取り出し、それを着る。

   さらにクローゼットから黒い野球帽を出し、しっかりとかぶる。

 

○駅のロータリー
   夏帆が号外を配っている。少し離れたところで武弘が夏帆の様子を見ている。

   老人が駅に向かって歩いているのを見つける武弘。

   ぎこちなくそれについて行きながら、夏帆の近くに行く。

夏帆「(笑顔で)号外です。お願いしまーす」

   武弘に号外が手渡される。武弘急いで号外の一面を確認する。

   大きな字で『改革!お日様新聞!』と書いてある。

武弘「(思わず大きな声で)お、お日様新聞?」

   夏帆が武弘の声に気がついてクスッと笑う。

武弘「いや、あの、えっと…スミマセン」

夏帆「いえ、いいんです。大きなニュースかと思われたんじゃないですか?」

武弘「…はい」

夏帆「私この近くにあるお日様新聞社ってところに勤めているんです」

   武弘、目を合わさず無言でうなずく。

夏帆「今、お日様新聞は以前より字を大きくし、

 全体的に読みやすい新聞に改革したんですよ」

武弘「え?じゃあこの号外っていうのは…」

夏帆「お日様新聞、リニューアル記念の号外です!

 三日間無料でお配りしております!」

   武弘力が抜け、思わずその場に座り込む。

夏帆「(顔をのぞき込んで)大丈夫ですか?」

武弘「(びっくりして)いやあの…大丈夫です」

夏帆「良かった。じゃあ私はこれで失礼しますね。

 今後ともお日様新聞をよろしくお願いします!」

   夏帆、再び号外を配り始める。武弘ゆっくり立ち上がる。

武弘「リニューアル記念…だったのか…」

   武弘もらった号外を握りしめ、忙しそうに歩くスーツの男や

   しっかりと化粧した派手な女、
   大きなスポーツバッグを持った男子高校生などが忙しそうに歩いているのを

   ぐるりと見渡す。

   一つ伸びをして、夕焼けで赤く染まっている空を見上げる。

武弘「そうだ、久しぶりにコンビニでも行くか」

   武弘、駅の近くにあるコンビニを目指し、歩き始める。

   その足取りはどことなく軽やか。

九年後の僕へ@一年間

人物

相沢晴孝(12)→(13)小学生→中学生

近藤千晶(12)→(13)小学生→中学生

太田聡(12)→(13)小学生→中学生

木下竜也(12)→(13)小学生→中学生

相沢孝子(48)主婦・相沢の母

 

 

○野原の一本杉の下(朝)

   木の下で相沢晴孝(12)が食べかけのクッキーを見つめている。

   太田聡(12)が相沢の前にクッキーの缶を差し出す。

太田「晴孝、もっとクッキー食うか?」

相沢「じゃあそのチョコのやつを・・・」

太田「はい、毎度!」

   太田が缶からチョコレートのクッキーを取り出す。

   少し遠くに木下竜也(12)近藤千晶(12)がおり二人で何か話している。

太田「お二人さーん、仲いいのはいいけどクッキーまだあるぞー」

木下「まだあるの?俺ももうちょっと食べたいな」

千晶「私も!チョコがいいな」

太田「(クッキーを渡して)チョコ大人気だな。晴孝もチョコがいいってさ」

千晶「だってチョコクッキーって美味しいもん。ね、相沢くん!」

相沢「う、うんそうだね」

木下「この缶丈夫そうだな。捨てるのもったいないし、

 何かに使えるんじゃないかな?」

太田「うーん、じゃあ・・・」

 

○野原の一本杉の下
   相沢が「十年後の自分へ 元気ですか?近藤さんとはその後、

   どうなっていますか?・・・」などと書いてある手紙を黙読している。

   しばらくして手紙を封筒にしまう相沢。

   太田がスコップを持って相沢の側に駆け寄る。

太田「おい晴孝、早くしろよ。もう穴も掘り終えたし、

 先にタイムカプセル埋めちゃうぞ」

相沢「わ、びっくりした」

   慌てて手紙を隠す相沢。

太田「(笑いながら)なんだよ、読まねえよ今は。十年後は読ませてくれよ」

相沢「やだよ」

   木下と千晶が手紙を持ってやってくる。

   千晶の手紙は束になっている。

太田「二人とも手紙書いた?じゃあこの缶の中に入れてね」

   太田、木下にクッキーの缶を渡す。

木下「入れたよ」

太田「おう!木下も十年後に読ませてくれよ。って近藤の手紙はやけに多いな!」

千晶「えっと、十年後の自分とそれから十年後のここにいるみんなに

 それぞれ手紙書いてみたんだ。だめだった?」

太田「いや、ダメじゃないけど・・・入るかな?」

相沢「・・・入るよ。入れよう」

   相沢が千晶の手から手紙の束をそっと受け取る。

千晶「(笑顔で)ありがとう、相沢くん」

相沢「あ、いや、うん」

   千晶の手紙を缶に入れる相沢。太田が缶にふたをする。

太田「よし、ふたしたぞ」

   木下、掘っていた穴に缶を置く。

木下「じゃあ埋めるよ」

太田「また十年後に掘り起こしてやるからな」

   木下、タイムカプセルに土をかぶせる。

 

○野原近くの道(夕方)
   鼻歌を歌いながら千晶が前を歩いている。

   遅れて相沢、太田、木下が並んで歩いている。太田が軽く伸びをする。

太田「あーあ、もうすぐ卒業式だな」

木下「そういや相沢って私立の中学校行くんだっけ?」

相沢「あ、うん、そうだよ」

木下「寂しくなるな」

太田「晴孝、新しく友達出来ても俺らの事忘れるなよ!」

相沢「そんなに簡単に忘れらんねえよ(千晶の後ろ姿を見ながら小声で)

 ・・・忘れないよ」

 

○私立丘の上男子中学校・校門(朝)

   入学式という大きな立て看板が出ている。

   校門の側の桜の花が満開になっている。相沢、校門をくぐる。

   相沢孝子(48)が相沢の後ろから声をかける。

孝子「晴孝、お勉強今まで以上に頑張るのよ」

   相沢、黙ってうなずく。

 

○相沢の部屋
   どこかでセミの鳴き声がしている。

   相沢、机に向かって歴史の参考書に書き込みながら首をかしげる。

   そばには夏期講習テスト予定表が置いてある。

   ポケットの携帯電話が鳴り、手に取る。

   太田からのメールで「久しぶり!今暇?みんなで遊ぼうぜ」と書いてあり、

   スクロールすると太田を中心に、木下、千晶が笑顔で写っている写真が

   添付されている。相沢じっと写真を見つめる。

   手短に返信をすませてから携帯電話をポケットに入れ再び教科書を手にする。

 

○街の中
   太田、木下、千晶がアイスクリームを食べている。

太田「返信来た。晴孝、夏期講習のテスト勉強中だって!」

千晶「・・・そっか、残念だね」

太田「卒業してから全然会えねえなあ」

木下「勉強か、俺たちも勉強頑張らないとな」

太田「はいはい、(アイスを持ち直して)これ食べてからね!」

   一同、笑う。

 

○私立丘の上男子中学校・掲示板前
   窓の外で木々の葉がはらはらと落ちている。
   掲示板には期末テスト学年順位が張り出されており、

   1位から順番に順位が書かれている。真ん中の方に「相沢晴孝 21位」

   という文字を見つける相沢。がっくりと肩を落とす。

   携帯電話を取り出し、千晶に「会いたい」とメールを打つがすぐに消して

   携帯電話をしまう。ふと、窓の外の空を見上げる。

 

○道(夕方)
   雪が降っている。手袋をしながら英単語帳をめくっている相沢。

   吐く息が白い。ふと足を止めて、遠くからかすかに見える杉の木を見る。

相沢「聡・・・木下・・・元気かな・・・近藤さんも・・・」

 

○相沢の部屋(夜)
   机にノートを広げたまま突っ伏す相沢。かなり落ち込んでいる。

   足下に塾の資料が散乱している。

   その中の紙に「志望校合格率50%」の文字。

   ふいにドアをドンドンとたたく音がする。
孝子の声「晴孝、もっと勉強頑張らなきゃ!

 中一でもこの成績じゃ志望校に落ちちゃうわよ!」

相沢「(少し怒鳴って)わかってるよ!」

   しぶしぶ英単語帳を広げる相沢。「time」の文字が先頭に来ている。

   ふとノートに「タイムカプセル」と書く。

   机の上のカレンダーを確認する相沢。

相沢「・・・明日でちょうど一年か」

   相沢ふと思いつきルーズリーフに「九年後の僕へ」と書く。

   続き「僕は明日、近藤さんに告白しようと思います。

   その後、僕はどうなりますか?」とどんどん書き進める。

 

○野原の一本杉の下
   相沢がスコップで杉の木の下を掘っている。

   近くには千晶が心配そうに見ている。

千晶「相沢くん、どうしてタイムカプセル掘り起こすの?」

相沢「(土を掘り起こしながら)どうしても追加したい手紙があるんだ。

 今日の決意のためにも必要だし」

千晶「そうなんだ、でもちょうどいいや。私もあの中に捨てたい手紙があったから」

相沢「捨てたい手紙?」

   カツーンとスコップが何かにぶつかる音。

   タイムカプセルの缶の角が顔をのぞかせている。

千晶「十年後の木下くん宛てに書いた手紙にね、「好きです」なんて

 書いちゃったんだ。馬鹿だよね。木下くん今、彼女いるのに」

   千晶、タイムカプセルを掘り起こし、自分の手紙を確認する。

千晶「あ、これ。あったあった」

   千晶、手紙に少し目を通し、破り捨てようとする。

相沢「ちょっと待って」

千晶「え?」

相沢「僕も追加して手紙入れようかと思ったけどやっぱりやめるよ」

千晶「え、でも決意がどうとかって・・・」

相沢「いや、やっぱりタイムカプセルはそのままにしておいた方が

 いいなって思ってさ」

千晶「でも・・・恥ずかしいし」

相沢「これはこのままの方がいいんだよ。

 僕もあの時、恥ずかしい事いっぱい書いたし」

千晶「・・・わかった、手紙このまま入れておくよ」

   千晶、手紙をタイムカプセルに戻す。

   相沢タイムカプセルを元の場所に置く。

相沢「(タイムカプセルに向かって)じゃあ、また九年後に!」

   相沢、タイムカプセルに土をかぶせる。

 

非常口は開かない@非常口

人物

森田一郎(21)大学生

一ノ瀬良平(21)大学生・森田の友人

平野優子(27)OL

秋山夏紀(30)ショッピングモール7階店員

大里孝明(64)無職

大里しずえ(60)主婦・大里の妻

 

 

〇ショッピングモール・7階非常口付近

   非常口のライトがチカチカと点滅している。

   森田一郎(21)を先頭に秋山夏紀(30)一ノ瀬良平(21)が走ってくる。

   遅れて平野優子(27)大里孝明(64)最後に大里しずえ(60)が

   息を切らせながら非常口にたどり着く。

 夏紀「ここが非常口です。今開けますね」

   非常口なぜか開かない。

 夏紀「あれ?開かない?」

優子「こんな時に非常口が故障?」

夏紀「おかしいですね。ここを引くと開くはずなのですが…」

   夏紀がもう一度非常口を開けようとするとが開かない。

 森田「僕も引いてみましょうか?」

 一ノ瀬「あ、俺も手伝うよ」

 大里「みんなでやりましょう」

   全員非常口の前に立つ。

 夏紀「せーの」

 森田「よいしょっ」

    非常口、びくともしない。

 一ノ瀬「開かないですね。何か挟まってるんじゃないですか?」

 優子「というか突然すぎて私…何があったのかよくわからないんですけど…」

 大里「すみません。突然皆さんを連れ出して…さっき店内の隅で妙な鞄を見つけて…

 誰のかなと思って開けてみたら、なんだか変な機械が入っていて…

 あれはおそらく… 爆弾です」

   全員息をのむ。

 森田「…爆弾…ですか?」

    大里の隣りのしずえが首をかしげる。

 優子「(しずえに)あの、あなたも見たんですか?」

 しずえ「いえ、私は見ていないんです。この人が突然騒ぎ始めてとにかく逃げようって

 言うから…そしたら(夏紀をちらりと見て)こちらの店員さんが非常口まで案内して

 くださって…(大里に)本当に爆弾なの?何かと勘違いしたんじゃない?」

 大里「本当だよ。見たんだ」

 一ノ瀬「(森田に小声で)本当なのか怪しいな」

   森田、無言でうなずく。

 森田「もし本当なら他の人はどうなったんでしょう。

 僕たちは夢中でその場から逃げてきたけど…みんな避難してないんじゃ…」

 大里「さあ…たまたま近くにいた君たちに声をかけるのが精一杯だったもので」

 優子「結局何があったのかよくわからないですね」

 一ノ瀬「信憑性もないし」

 夏紀「ではちょっと私がフロアの様子を見て参ります」

 大里「危ないぞ。どこに爆弾が仕掛けられているか…

 もしかするとテロリストがいるかもしれない!」

 夏紀「(にっこり笑って)大丈夫です。注意して調べますので」

   夏紀フロアの様子を見に行く。

 優子「本当に大丈夫かな?」

 一ノ瀬「俺一緒に行った方が良かったかな」

 森田「うーんどうだろう。

 でもお前が一緒より店員さん一人の方が動きやすいんじゃないか?」

 一ノ瀬「俺はお荷物ってか?」

 森田「そういう意味じゃなくて…」

   夏紀戻ってくる。

 夏紀「今店内でその妙な鞄を探してみました。

 確かに鞄はありましたが、お客様がおっしゃってるような爆弾は

 入っておりませんでした。

 テロリストもいません。混乱を避けるため、

 他のお客様にはお伝えしておりませんが、本当に何も問題ないようです」

    一同報告に安堵するが一人納得いかない様子の大里。

 大里「じゃあ、あれはなんだったんだ!」

しずえ「やっぱり何かと見間違えたんじゃないの?」

 大里「でも見たんだ!爆弾のような物を…」

 一ノ瀬「あの、爆弾のような物って…爆弾、見た事あるんですか?」

 大里「いや、本物は見た事はない、テレビで何度か…」

   全員ため息をつく。

 大里「本当にただならぬ雰囲気があったんだ」

 しずえ「その勘違いのために皆さんに迷惑かけたんじゃない!ちゃんと謝ってよ!」

 優子「本当に爆弾は入ってなかったんですよね?

 テロリストもいなかったんですよね?」

 夏紀「ええ、いつも通りの店内です」

 一ノ瀬「本当、お騒がせだよなあ」

 森田「いや、今ふと思ったけど、毎日平和が当たり前のようだったけど本当は

 いつ何が起きてもおかしくない。

 何もない日常って実は結構いいものなんじゃないかな」

 一ノ瀬「まあ、俺も逃げろなんて言われた時すげー全力で走ったよ。

 正直すごく怖かったな。何もなくて本当良かったよ」

 大里「私の勘違いでみんなに迷惑をかけて申し訳ない」

 優子「もういいですよ。私も何事もなくて良かったと思います」

 一ノ瀬「じゃあ戻りますか、その何事もなかった日常に!」

    一同非常口のライトと開かない扉を見つめた後、振り返る。

   夏紀が銃を向けている。

 夏紀「全員動くな、動くと撃つ」

    一同、騒然とする。

森田「…え?」

   夏紀、小型の無線機に向かって

 夏紀「こちらA。非常口は予定通り封鎖。逃げた人質5人もうまく確保した」

 一ノ瀬「なななんで店員さんが…」

夏紀「これからあなた方は政府との交渉に利用される」

 大里「まさかあの爆弾は、本物?」

 夏紀「(大里を見て)あなたが、我々の仕掛けた爆弾を目撃して

 近くの4人と逃げ出した時は焦ったが隙を見つけてうまく確保できた」

 しずえ「主人が言ってた事は本当…だった」

 夏紀「そうだ」

 森田「じゃあ、非常口が開かなかったのは…」

 夏紀「最初に私が触った時開かないよう、細工を施した」

 一ノ瀬「…マジかよ…」

 夏紀「質問は終わりか?なら行くぞ。他の人質も待っているからな」

   一同絶望する。

 夏紀「さっき平和がいいとか言ってたな」

    夏紀にやりと笑う。

 夏紀「ようこそ、非日常へ」

   非常口のライトがチカチカと点滅している。

 

 

甘党部長@おじさん

人物

新谷健人(25)会社員

加藤征司(48)会社員・部長

増田亮一(35)会社員・主任

ウエイター

 

 

○ファミレス・入口

   ドアのカランカランという音。

   笑顔の加藤征司(48)を先頭に作り笑いを浮かべた増田亮一(35)と

   無表情の新谷健人(25)が入って来る。

ウエイター「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

加藤「三名です。あ、席は禁煙ね」

ウエイター「ではこちらへどうぞ」

 

○同・禁煙席の一角

   通された席の奥に加藤、隣に増田が座る。加藤の正面に新谷が座る。

ウエイター「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

   ウエイター立ち去る。

加藤「さあ、何食べようか?」

増田「そうですねえ…あ、新谷くん、メニュー取って」

新谷「(無愛想に)はい」

増田「部長、これなんてどうですか?ピリ辛ハンバーグ!

 ハンバーグに唐辛子が入ってるそうですよ!」

加藤「えーボク辛いの苦手だなあ。そんなにおなかすいてないし、

 今日はバナナチョコレートパフェとミルクレープにしようかな」

増田「ええー甘い物だけですか?」

加藤「だって好きなんだもん。家じゃ食べさせてもらえないしさ」

新谷「(小声で)チッ、この甘党部長」

加藤「ん?新谷くんもパフェ食べる?」

新谷「いえ、私は結構です」

増田「じゃあ私はピリ辛ハンバーグにしますね。新谷くんは?」

新谷「同じでいいです」

   新谷の携帯電話が鳴る。

新谷「あ、ちょっと失礼します」

   新谷、加藤と増田がウエイターを呼び、楽しそうに注文しているのを

   にらみつつ、移動して電話を取る。

 

○同・ドリンクバー付近

新谷「はい、新谷です…はい、お世話になっております。ええ、はい、え?

 確認致します。あの、ちょっとお待ちいただけますか?」

   新谷、慌てて席に戻る。

 

○同・禁煙席の一角

   鞄から資料を取り出して確認する新谷。

新谷「…あ、今確認しました。確かにおっしゃる通り見積書の金額の

 桁がはるかに多いですね。…申し訳ありません。うちのミス…いえ私のミスです。

 申し訳ありません。え…ちょっと待って下さい。からかってなんていませんよ。

 確かにそうですが、でも…いえ大変申し訳ありませんでした…」

   いつの間にか電話を切られている事に気づき、呆然とする新谷。

増田「どうかしたのか?」

新谷「…部長、主任、申し訳ありません。私のミスでこれから伺う先方の山下さんを

 怒らせてしまいました」

増田「新谷くんのミス?何をやってるんだ君は!」

   ウエイターがパフェを持ってくる。

ウエイター「お待たせ致しました。バナナチョコレートパフェのお客様」

加藤「あ、ボクね。じゃあお先にいただきます。いやーパフェ久しぶりだよ。

 美味しそうだなあ」

増田「(いらいらしながら)部長パフェ食べてる場合じゃないですよ」

加藤「ん、どうして?」

新谷「だから私がミスしたせいで先方を怒らせてしまったので…」

増田「新谷くんどうするんだ!君のミスだぞ!」

加藤「いや、それは違うな」

新谷「え?」

加藤「きちんと確認しなかったボクの責任だよ。新谷くん一人で抱え込まないで。

 会社は君一人が回しているんじゃないからね」

新谷「あ…」

加藤「先方の山下さんには今すぐボクが電話で謝るよ。大丈夫、あの人すごく

 短気だけど話せばわかってくれるから」

増田「いやー部長、助かります。新谷くん、今後気をつけるんだよ」

新谷「はい、あの、部長…ありがとうございます」

加藤「(携帯電話を取り出しつつ)いいよいいよ気にしないで」

   加藤、ふと目の前の少し溶けたパフェを見つめる。

加藤「電話はパフェ食べてからでいいよね?溶けちゃうから」

新谷「(くすりと笑って)やっぱり甘党部長」

加藤「ん?何?」

新谷「いえ、何でも…何でもありませんよ。部長」

   新谷、にっこりと笑う。

魔法の鉛筆@万年筆

人物

山本和重(38)会社員

山本聖子(35)主婦・和重の妻

山本一樹(5)和重の息子

山本道代(70)和重の母

山本茂雄(78)故人・和重の父

 

○山本家・仏壇(夕方)

   山本茂雄(78)の遺影が置いてある。その前に置いてある万年筆を掴んで

   山本一樹(5)が走り去る。

 

○同・茂雄の部屋

   一樹が原稿用紙に何か書いている。側には万年筆用のインク。

 

○同・リビング

   山本道代(70)と山本聖子(35)が洗濯物をたたんでいる。

聖子「一樹、お義父さんが亡くなってからずっと何か書いてますね」

道代「ふふふ、おじいちゃんの机、気に入ったのかしらね」

聖子「あの万年筆もお義父さんが最期に一樹にくれたものだって、

 何度も仏壇から持ってちゃうんですよ」

道代「あの人、あの万年筆をずっと大事にしてたのよ。

 でも一樹くんが持つにはちょっと難しいかもね」

聖子「…そうですね」

   道代と聖子、深いため息をつく。

和重の声「ただいま」

聖子「あら、あなた?」

   聖子、立ち上がり玄関まで行く。

 

○同・玄関

   山本和重(38)が靴を脱いでいる。

聖子「おかえりなさい。今日は早いのね」

和重「ちょっと一樹が気になってたから今日は早く帰って来た」

聖子「仕事は大丈夫なの?」

和重「大丈夫だよ」

 

○同・茂雄の部屋

   一樹、相変わらず何かを書いている。和重、背後から声をかける。

和重「一樹、何書いてるんだ?」

一樹「おじいちゃんにたくさん手紙を書いてるんだ。

 ねえ、お父さん天国にはどうやって手紙を送ればいいの?」

和重「うーん…あ、お父さんも手紙書こうかな」

一樹「うん、じゃあこの魔法の鉛筆で書くといいよ」

   一樹、万年筆を和重に渡す。

和重「魔法の鉛筆?」

一樹「そうだよ。おじいちゃんが言ってたんだ。

 魔法の鉛筆は大事にしていればずっと使えるんだって。永遠に使えるんだよ」

   和重、万年筆をじっと見る。

一樹「永遠に使えるって事はこれで書けば天国でも手紙、読めるんだよね?」

和重「…一樹…」

一樹「でも不思議なんだ。魔法の鉛筆はインクにつけて書くんだけど、

 またすぐインクにつけないと書けなくなるんだよ。本当に天国でも読めるのかな?」

和重「インクはすぐになくなるけど万年筆そのものは永遠に使えるか…

 なんだか人の一生みたいだな」

   一樹、首をかしげる。

和重「インク、つまり人の命はすぐ終わるけど、万年筆そのものはなくならない。

 その人の思い出はなくならないって感じかな?」

一樹「よくわかんないよ」

和重「お父さんにもよくわからんよ。じゃあ二人でおじいちゃんに手紙書こうか」

一樹「僕はもうたくさん書いたよ。はい、お父さん読んでみる?」

   一樹が得意げにたくさんの絵が描いてある原稿用紙を渡す。

   和重、突然涙があふれる。

一樹「どうしたの、お父さん?」

   涙でインクがにじみ、絵がぼやける。

一樹「あ、魔法の鉛筆って水にも弱いんだね」

和重「ああ、そうだった…そうだったよな。

 一樹ごめんな。もう一回書いてくれるか?」

   一樹、うなずき万年筆を手に取る。夕日が二人の影を映し出す。 

 

 

いってらっしゃい@わかれ

人物

河村伸二(28)会社員

横井あき(27)OL・河村の恋人

 

○横井あきのアパートの部屋(夕方)

   河村伸二(28)が大きなスーツケースに荷物を詰め終わる。

   別の部屋から横井あき(27)が入って来る。

あき「あれ?荷物これだけ?」

河村「ああ」

あき「思ってたより少ないね」

河村「まあ、引っ越し業者に持ってってもらったしあとは結構捨てたからな」

   ゆっくり座る二人。煙草に火をつける河村。無言で近くの灰皿を渡すあき。

あき「…ねえ、本当に行くの?」

河村「行くよ。もう新しく住む場所決めてるし」

あき「やっぱ、そうだよね」

河村「もう夕方かー。この部屋西日がものすごく入ってくるな。暑い」

あき「本当。この時間は普段お互いうちにいないから知らなかったね…

 エアコン入れようか?」

河村「いやいいよ…なんか思い出した」

あき「海行った時?」

河村「見たよな、夕日が沈むの」

あき「そうそう、何だかあっという間に沈んですぐ暗くなってびっくりしたよね」

河村「そうだな…あっという間だった」

   河村、煙草をもう一本取り出し吸い始める。

あき「…あ、ねえ、明日も仕事?」

河村「ん、そうだよ」

あき「部屋の片付けしないといけないし、休めばよかったのに」

河村「いや、そういうのは後回しだよ。今仕事に集中したいから」

あき「そういう人だったもんね」

河村「そういう人でしたよ、俺は」

あき「なんか仕事のことでたくさんケンカもしたよね」

河村「そうだったな。嫌な思い出だ」

あき「そうかな、私には夕日見た時もケンカした時も今は全部いい思い出かな」

河村「まあ全部終わったしな。嫌なこともなんだかいい思い出になるんだな」

あき「…そうだよね」

河村「じゃあ俺、そろそろ行くよ」

   火のついた煙草を灰皿に置き、立ち上がる河村。

あき「うん。じゃあ…いってらっしゃい」

河村「いつも通りだな、お前は。でも俺はもうただいまは言えないな」

あき「…それでもいいよ。最後でもいつも通りにしようよ」

河村「そうだな。じゃあ、いってきます」

あき「いってらっしゃい」

   河村、玄関を閉め、出て行く。

   煙草の火がまだついていて煙が立っている。

あき「あ、煙草、また火がついたままだ」

   煙草の火を消しながらあきの頬から涙が伝う。

偶然@ケンカまたはラブシーン(ケンカを選択)

人物

相川直樹(25)会社員

小林翼(23)OL・直樹の恋人

 

○相川直樹のアパートの部屋

   相川直樹(25)が携帯電話を見ている。そこへ玄関のチャイムが鳴り、

   テーブルの上に携帯電話を置いて玄関へ向かう相川。

   ドアを開けると小林翼(23)が立っている。

相川「あ、翼。どうしたの?」

翼「見たの」

相川「何を?」

翼「とぼけないで!私見たんだから!」

相川「と、とにかくうちに入りなよ」

   翼、黙って相川の部屋に入る。後に続く相川。

相川「で、何を見たんだって?」

翼「昨日偶然有楽町で直樹を見たの…また女の人と一緒だった」

相川「なんだよ、またって」

翼「前にもあったでしょ。錦糸町で…」

相川「あれはうちの姉だって言っただろ」

翼「じゃあ今回のは誰?」

   相川ため息をつく。

相川「上司だよ。相談に乗って貰ってたんだ」

翼「ずっと一緒だったの?」

相川「ずっとってまあ、終電には間に合ったけど」

翼「そんなに相談することがあるの?」

相川「別にそんなこと、お前に関係ないだろ」

翼「関係なくないよ。相談なら私が聞いたのに」

相川「仕事のことだよ。お前わかんないだろ」

翼「私だって働いてるし」

相川「そういう問題じゃねえよ」

翼「でも前の時も…」

相川「何が前の時だよ、あれは姉だって言ってるだろ。前の錦糸町といい、

 今回といい、なんでお前は俺の居場所把握してるんだよ」

翼「ぐ、偶然だって言ってるじゃん。だいたいなんで上司に会ったこと

 私に教えてくれないの?」

相川「はあ?なんでいちいちお前に報告しなきゃいけねえんだよ。だから…」

   テーブルの上の相川の携帯電話が鳴る。

翼「出ないで」

相川「仕事の電話だよ。出るよ」

翼「今仕事より大事な話してるでしょ」

相川「いや、仕事の方が大事だし」

   相川携帯電話を持って外に出て行く。

   残された翼、自分の携帯電話を取りだしGPS付きの地図を見る。

翼「よかった、直樹まだ近くにいる」